海外情勢

満員電車、マスク外し…武漢に戻る日常 初動遅れの記憶、政府不信消えず

 新型コロナウイルス対策で都市封鎖してから半年となる湖北省武漢市が日常を取り戻し始めた。満員電車、マスクなしで遊ぶ人々、盛況の夜市。市民は口々に「安心感」を口にし、コロナのリスクは「全国一低い」との声も。一方、政府不信や医療崩壊の記憶は今も残ったままだ。

 全市民PCR検査

 22日朝、中心部の公園を歩くと多くの人が太極拳や運動を楽しんでいた。マスク姿は1割程度だ。「安全だから着けなくて大丈夫」と、パートナーと密着してダンスに興じる60代男性は笑う。中高年グループに参加して踊っていた女性は「北京から来たの? 『第2波』で大変でしょう」と記者を気の毒がった。

 6月以降に再び発症者が増えた北京市と違い、武漢は多くの居住区で進入時の身元確認がなくなった。4月8日の都市封鎖解除後も感染を恐れて4時間ごとにマスクを取り換えていた40代のタクシー運転手男性は「もう怖くない」と着用をやめた。

 市民が警戒を解いたよりどころは、5月半ばから半月ほどで実施された「全市民PCR検査」。当局の対応を批判的に見続けてきた50代男性も「武漢は今、全国で一番安全だ」と話す。

 一方、満員の地下鉄では、ほぼ全員がマスク姿だった。最初の「震源地」となった海鮮市場は閉鎖され、多くの店舗が郊外の市場に移転した。5月に営業再開した店の関係者は「経営は良くない」と顔をしかめる。

 別の大規模卸売市場では生臭さと消毒液のにおいが混じり合う中、旬のザリガニが売り買いされていた。夜市で若者らに人気の料理に使われる食材だ。

 「今年は多く望まぬ」

 だが政府への疑念は根強い。コンピューター断層撮影(CT)で典型的な症状が確認されたにもかかわらず「発症者」と認定されないまま母の胡愛珍さんを亡くした40代の丁穎均さんは「母と同じように治療を受けられず死んだ人は大勢いる」と語気を強めた。

 「人から人へうつる証拠はない」「抑え込み可能」と繰り返した当局の初動の遅れが都市封鎖の事態を招いたことを、人々は忘れていない。団地の階下と向かいの部屋で感染者が出た30代の元銀行員女性は「怖くてたまらなかった」と封鎖期間を振り返る。「政府が早期に警告すればこれほどひどいことにならなかった」。遠縁の親戚が感染して亡くなった。

 娘を旅行に連れて行きたいが、収入減で余裕がない。「今年は多くを望まない。生き延びられれば十分」。ようやく可能になった外食を楽しみながらつぶやいた。「今は安心感がある。でも当局は、また発生しても『コロナはもう終わった』と隠すかも」。不安と不信は消えていない。(武漢 共同)

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