海外情勢

米中ワクチン獲得競争過熱 「公共財」望む声は軽視

 新型コロナウイルス感染症のワクチン確保に向け、獲得競争が過熱している。効果や流通量が不透明なため、各国が自国優先に走る現状は「ワクチン・ナショナリズム」とも称される。再選を狙う米国第一主義のトランプ政権や、途上国相手に“ワクチン外交”を展開したい中国は独善ぶりを加速。「世界の公共財」としての利用を望む声は軽視されている。

 「記録的早さでワクチンを届ける歴史的な政治主導だ」。トランプ米大統領は7月27日、南部ノースカロライナ州のワクチン関連工場を視察し強調した。

 6月以降の感染再燃も響き、11月の大統領選に向けた世論調査では劣勢。AP通信は「ホワイトハウス職員の多くは、ワクチンが再選への『起死回生の一打』になると信じている」と報じた。

 政権は既に米バイオテクノロジー企業ノババックスに16億ドル(約1700億円)を投資する見返りに1億回分のワクチン、英アストラゼネカにも最大12億ドル支援し3億回分を得ることで合意するなど自国民約3億人への供給確保に力を入れる。

 3月にはトランプ政権がドイツ企業キュア・バクに接触し、米国のみで使おうとしたとの囲い込み疑惑が報じられるなど競争熱は著しい。

 欧州で死者が最も多い英国でも政府が巨額を投資。「ワクチンを見つけるという地球規模の対応をリードする」(シャーマ民間企業・エネルギー・産業戦略相)との自負がのぞく。

 アストラゼネカが9月の供給開始を目指すワクチンのうち、1億回分の提供を受ける予定。萎縮する国民に安心感を与え、落ち込んだ国内経済の再生につなげたい思惑があるとみられている。

 過熱を受けワクチンを「世界の公共財」とすることを求める声が強まってきた。「世界各国で使われるべきだ」と主張するドイツのメルケル首相は「世界の人々を救うことが求められている」と訴えている。

 フランスのマクロン大統領も「保健衛生上のナショナリズムを訴えるのはばかげている」と発言。自国大手サノフィのトップが5月、資金を先に投入した米国を優先することを示唆する発言をして波紋を広げて以来、マクロン氏は公共財化を強調している。

 一方、中国は自国の利益拡大に利用する動きを見せている。習近平国家主席は6月、アフリカ諸国とコロナ対策を話し合うテレビ会議で「中国はワクチンを実用化させた後、アフリカ諸国での使用をいち早く実現することを約束する」と演説した。

 中国政府は「ワクチン研究で世界の先頭を走っている」(中国外務省)と自負。会議では各国への有償提供をちらつかせた。発展途上国を中心にワクチン外交を展開し、中国の仲間づくりを進める構えだ。(ワシントン、ロンドン、ベルリン、パリ、北京 共同)

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