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商業捕鯨再開から1年 コロナで値崩れ、需要伸びず収益確保に苦心

 日本の国際捕鯨委員会(IWC)脱退に伴う商業捕鯨再開から1年が経過した。調査捕鯨より操業は自由になったが、鯨肉の需要は伸び悩み、衛生管理などの課題も浮かぶ。捕鯨業者は新拠点を設けるなどして、産業復活に模索を続ける。

 ◆操業海域拡大で活路

 7月に再開された商業捕鯨では調査捕鯨と違い、より脂が乗った大きい個体を狙って捕獲できる上、船上で肉の血抜きや冷却が可能なため、鮮度が向上した。市場は好感して再開後、鯨肉価格は堅調に推移。ただ、新型コロナウイルス感染拡大に伴って値崩れも起きた。捕鯨業者は操業海域を広げるなどして収益確保へ知恵を絞る。

 沿岸操業拠点の北海道釧路市の市場関係者によると、調査捕鯨では1キロ当たり約3000~4000円弱で取引されたが、昨年の商業捕鯨再開後はやや高い約4000円に。今年は約3000円と新型コロナの影響を受けたが、他の魚種より下落幅が小さかった。ただ、供給は大きく変わらず、需要が急激に高まったわけでもないため、全国的に流通の変化は乏しい。同市の飲食店で長年クジラ料理を提供する田中良信さん(67)は「地道に魅力を発信していくしかない」と話す。

 一方、沿岸操業の業者は今年5月、青森県むつ市の大畑漁港を新たな拠点に漁を実施。かつて捕鯨基地だった北海道室蘭市でも6月に操業する計画だった。青森側の漁が好調で室蘭の漁は実現しなかったが、春から秋にかけて太平洋を北上するミンククジラの回遊状況をにらんで選択肢を広げていた。操業海域が指定されていた調査捕鯨が終わり、より柔軟な漁が可能となっている。

 ◆衛生管理の課題も

 政府は2020年度も捕鯨業者を支えるために51億円の予算を計上したが、支援がいつまで続くかは見通せず、将来的には産業としての自立が必要だ。

 採算性に大きく関わる捕獲枠は調査捕鯨で得たデータを基に毎年水産庁が設定。20年の上限は、ミンククジラと、ニタリクジラ、イワシクジラの計3種383頭で、調査捕鯨だった18年実績の6割程度に抑えた19年と同等だ。日本小型捕鯨協会(福岡市)の貝良文会長は「国は国際社会の目を気にしているのか。現状では厳しすぎる」と指摘、枠の拡大を求める。

 6月には宮城県の「鮎川捕鯨」が出荷した鯨肉による食中毒が発生。鯨肉は解体施設が限られるため、水揚げ場所によっては長距離輸送も伴う。業者などは衛生管理の徹底など再発防止策の作成に着手している。新型コロナの影響が長引けば飲食店向きの鯨肉の打撃は避けられず「2年目で早くも正念場だ」と現場は緊張感を増している。

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【用語解説】商業捕鯨

 鯨肉や鯨油などの商業利用を目的とする捕鯨。日本では歴史的に各地の沿岸で営まれ、1930年代に南極海に進出。鯨肉は戦後の食糧難の中、学校給食などで重宝された。捕獲規制の動きが強まり、82年に国際捕鯨委員会(IWC)が商業捕鯨の一時停止を決定。日本は88年に撤退し、その後は南極海などで調査捕鯨を行った。2018年9月のIWC総会で日本の商業捕鯨再開の提案が否決され、同12月に脱退を通告。19年6月に脱退し、同7月に商業捕鯨を再開した。

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