海外情勢

米国「自国を優先」中国「外交の武器」 コロナワクチン争奪で激突 (1/2ページ)

 米国と中国が新型コロナウイルスのワクチン開発・確保に向けて、しのぎを削っている。ワクチンは感染拡大の再燃防止と同時に経済活動の正常化に欠かせない。いち早い経済回復は世界に対する影響力の維持・拡大にもつながる。国を挙げ、巨費を投じる両大国の争いは、世界をも巻き込んでいる。

 米、自国・他国を問わず契約へ100億ドル

 米バイオ企業モデルナは11日、開発中の新型コロナウイルスのワクチンについて、1億回分を米政府に供給する合意を発表した。契約額は最大15億2500万ドル(約1600億円)。同社のワクチンは臨床試験(治験)の最終段階である第3段階にあり、ロイター通信によると、結果は11月までに出る可能性がある。

 合意は完成直後には不足が予想されるワクチンの確保などのため、トランプ米大統領が立ち上げた「ワープスピード作戦」の一環。トランプ政権は約100億ドル(約1兆670億円)を投じて、自国、他国を問わず開発企業を支援し、優先的に供給を受ける契約の締結に奔走している。

 「米国民(のワクチン接種)が最優先だ」。米政府高官はこう語り、トランプ政権下で目立つ「自国主義」をここでもあからさまにしている。

 すでに米企業のジョンソン&ジョンソン(提供資金10億ドル)から1億回分、ノババックス(同16億ドル)から1億回分、ファイザーなどからも1億回分(同19億5000万ドル)を受けることで合意。国外でも、英アストラゼネカなどから3億回分(同12億ドル)、仏サノフィなどから1億回分(同21億ドル)の供給を取り付けた。

 コロナ禍で米国は経済的に大きな打撃を受けた。米食品医薬品局(FDA)のゴットリーブ元長官は米紙への寄稿で、最初にワクチンを確保できた国が「いち早く経済を再建させ、国際的な影響力も高められる」と、ワクチンを押さえる重要性を説明。米軍の活動にも影響が出た経緯があるだけに、「今や公衆衛生は国家安全保障の一部をなす」と強調した。

 ワクチン確保を急ぐトランプ政権の念頭には、米国と覇を競う中国が最初にワクチン開発に成功することへの警戒もある。ナバロ大統領補佐官は4月、中国がコロナ流行初期に関連情報の提供を拒んだのは、開発競争で先行するためだった可能性があるとし、「中国を打ち負かす」と対抗心をあらわにした。

 米司法省は7月下旬、中国政府の委託を受けた中国人ハッカー2人の起訴を発表した。ワクチンや治療薬の開発データを狙い米企業への侵入を図るなどしたとされ、米中のせめぎあいはサイバー空間にも広がる。

 ただ、米国の動きには波紋も広がっている。自国優先の「ワクチン・ナショナリズム」が幅を利かせないよう、世界保健機関(WHO)はワクチンの公正な配分を目指すが、WHO脱退を通告した米国は国際協調に背を向ける。

 自国優先の取り組みには国内でも「グローバルな公衆衛生政策と相いれない」(米専門家)との懸念は強い。だがワクチン争奪を規制する国際的取り決めはないという。(ワシントン 塩原永久)

 中国、「支援外交」展開の思惑

 中国は政府の掛け声の下、官民一体で新型コロナウイルスのワクチン開発を急いでいる。コロナ対応で出た国内の不満解消のほか、マスクなどの提供を通じた支援外交の延長として「ワクチン外交」を展開しようとの思惑も垣間見える。

 中国メディアによると、中国製薬会社の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)は7月21日、世界で2番目に感染者が多いブラジルで、ワクチンの臨床試験(治験)第3段階を始めた。国有企業の中国医薬集団(シノファーム)もアラブ首長国連邦(UAE)で第3段階に入っている。同社は年末までにワクチンを市場に出せる可能性があるとの見通しを示す。

 新興製薬会社の康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)は軍の後押しを受け開発に取り組み、6月下旬には人民解放軍で使用する承認を得た。

 中国のワクチン開発の動きは素早かった。中国国営新華社通信によると、国内の感染が深刻な1月下旬には、中国疾病予防コントロールセンターの幹部が開発に着手していると表明。習近平国家主席は3月、医療機関を視察し、早期の治験と市場投入を指示した。李克強首相は6月、ワクチン開発などへの投資額が官民で100億元(約1530億円)を上回る見通しを説明。感染症対策のため1兆元の特別国債発行の財政措置もとる。

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