額やほおを彩るクリーム色の線や丸い模様。時には葉や花が描かれることも。ミャンマーで、女性や子供が顔に塗る伝統的な植物粉「タナカ」だ。同国政府は3月、タナカを国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録申請した。タナカを配合した外国産の化粧品が出回る中、本家本元の生活文化を守る狙いがある。
ミカン科の植物「タナカ」の幹などをすりつぶして作られる。乾期には気温が40度前後まで上がることも珍しくないミャンマーでは、紫外線から肌を守り、冷涼感や虫よけ効果もある“万能アイテム”だ。
ところが近年、隣国タイなどの企業がタナカを材料に、美容効果をうたった化粧品を次々と発売。ミャンマー政府は「ミャンマー独自の文化が模倣されている」と危機感を強め、ミャンマー初の無形文化遺産登録に名乗りを上げた。
主産地は、2019年にユネスコの世界文化遺産に登録された中部の遺跡都市バガンの近郊。1000年余り前に栄華を誇ったことを示す遺跡には、当時からタナカを使用していたことを記した碑文もある。
バガンの農園で働くチョー・リン・シェインさんは、タナカ栽培のエキスパート。「ミャンマー人の肌の美しさはタナカにより育まれた」とし、「固有の文化を守り、誇りを持つべきだ」と訴える。
一方、急速に都市化が進む最大都市ヤンゴンでは、使う人が減少傾向にある。会社員の女性、トゥエ・モー・アウンさんは海外ブランドの化粧品を愛用し、タナカはほとんど使わない。
だが、2人の子供には「毎日欠かさず塗っている」。その理由を尋ねると「安心感でタナカに勝るものはない」と話した。(ヤンゴン 共同)