中国の外交を担う王毅国務委員兼外相が8月に入って対米関係についての見解を発表し、対話を通じた協調路線への回帰を呼びかけた。あと2カ月ほどに迫った米大統領選挙の結果をも見据えた中国の新たな外交方針といえるが、さて中国の思惑通りに事は運ぶだろうか。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)
王毅氏の見解発表は、新華社のインタビューに答えたもので、最後に対米関係の基本的な対応方針を4点にまとめている。すなわち、(1)最低ラインを明確にし、対立を回避する(2)チャンネルを円滑にし、率直に対話する(3)デカップリング(分断)を拒否し、協力を維持する(4)ゼロサム思考を捨て、ともに責任を担う-という内容である。
中国は共和党、民主党のどちらの勝利を望んでいるだろうか。
仮に民主党のバイデン候補が勝利しても、厳しい対中政策がすぐに緩和されると楽観的にみているわけではなかろう。しかし中国にとって、中国のメンツをつぶすようなあからさまな批判・攻撃を繰り返すトランプ政権よりも、バイデン候補の方が対話をしやすいことは間違いない。王毅氏の4点方針には、バイデン政権登場への期待感がにじみ出ている。
だが、王毅氏は協調路線への回帰という表向きは柔軟な姿勢を見せる一方で、香港や華為技術(ファーウェイ)の問題など、米国側が厳しく批判・攻撃している諸点については、従来の方針を1ミリたりとも変えているわけではない。
香港における国家安全維持法の実施については、「数百万の香港市民が自ら署名して国家安全維持法を支持しており、香港民衆が平和で安定した生活を渇望していることが示された」と述べている。あれだけ多くの香港市民が強い反対の意思を表明しているという事実には、一言も触れていない。
華為の問題では、「華為を含め、現在米国の一方的制裁を受けている多くの中国企業は無実であり、彼らの技術と製品も安全で、いかなる国に害を与えたこともない」と断言している。
こうしたかたくなな姿勢こそが問われているのではないか。米中両国が体制は異なりながらも、国交正常化以来、関係を発展させることができたのは、なぜだったのか。国交正常化の当時と現在では何が違っているのか。中国側が反省し、変えていかない限り、バイデン政権が誕生しても、事態は大きく変わらないだろう。