社説で経済を読む

去っても安倍叩き、左派メディアの執念

 産経新聞客員論説委員・五十嵐徹

 安倍晋三首相が退陣を表明し、次の首相となる自民党の後継総裁選びは菅義偉官房長官が独走態勢に入っている。

 政治はすでに次のステージへと目まぐるしく動いているのに、あいかわらず左派系メディアは“安倍政権の失政”を過去に遡(さかのぼ)ってあげつらう番組作りや記事掲載に余念がない。

 政治に安穏な幕引きがないのは事実だし、将来を展望するには過去の検証が欠かせないことも確かだ。批判も結構だろう。ただし、そればかりでは困る。新型コロナウイルスの新規感染が依然高いレベルにある中ではなおさらだ。

 例えば朝日新聞。社説の見出しを時系列で追うと次のようになる(カッコ内は掲載日)。

 最長政権 突然の幕へ 「安倍政治」の弊害 清算の時(8月29日)▽アベノミクス 「道半ば」で行き詰まり(8月30日)▽安倍改憲 首相が自ら招いた頓挫(9月1日)▽安倍外交 「価値」を実践したのか(9月3日)

 毎日新聞も似たようなものだ。

 安倍首相が辞任表明 行き詰まった末の幕引き(8月29日)▽「安倍政治」の弊害 民主主義ゆがめた深い罪(8月30日)▽アベノミクスの終幕 重くのしかかる負の遺産(8月31日)▽安倍外交の功罪 同盟強化も総決算ならず(9月3日)

 それほど憎いのか

 産経新聞主張(社説)の以下の見出しと比べれば、その違いは歴然だろう。

 首相の退陣表明 速やかに自民党総裁選を 「安倍政治」を発射台にせよ(8月29日)▽ポスト安倍の課題 拉致解決へ熱情継承せよ(8月31日)▽五輪と次期首相 開催実現へ旗振り役担え(9月1日)

 安倍政権を支持してきた立場と、これに異論を唱え続けてきた立場との違いはあるにせよ、朝毎の社説からは、安倍氏への憎悪のような思いすら伝わってくる。と言っては言い過ぎか。

 朝日は3日付社説で「安倍政権は、日本としては例の少ない『外交の顔』をつくった」と評価しつつも「首脳の個人的関係の演出ばかりが上滑りした感がぬぐえない」と総括した。

 しかし、その朝日も認めるように、安倍氏ほど外交舞台で日本の存在感を示し続けた首相はいなかったのではないか。

 日本では短命政権が続き、国際社会での発言力は無きに等しいレベルまで落ちていた。安倍氏がトランプ大統領との個人的関係を築けたからこそ、安定した日米関係が維持できたことは疑いはない。

 安全保障環境の変化から軋(きし)みが目立った米欧の仲介役でも大きな役割を果してきた。安倍首相の退陣を惜しむ声は日本で想像されている以上に大きい。

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をまとめ上げた功績も特筆すべきだ。米国の交渉離脱は痛手だったが、残る11カ国で踏みとどまったことは、保護主義の一方的な広がりに歯止めをかけたのではないか。

 毎日3日付社説は安倍外交の「負の遺産」として集団的自衛権の憲法解釈変更や安全保障法制の制定を挙げ、「憲法の規範性は損なわれた」と断じた。

 これに対して読売新聞は8月29日付の社説で「緊迫する安全保障環境の中で、日米同盟を基軸として政策を見直した」と評価し、「対日防衛義務を定めた日米安保条約の実効性を上げようとした首相の考え方は、理にかなう」と指摘した

 実は武闘派の菅氏

 さて先走るようだが、16日に発足予定の新政権は10月にも解散総選挙に打って出る可能性があるという。

 新総裁の任期は安倍氏の残り1年だけで、来年10月には再び総裁が選びなおされる。同じタイミングで衆議院の任期も切れる。座して任期満了を迎えるようなら、首相の座どころか総裁の座も危うい。

 次期総裁には自民党内ですら来年10月までのワンポイントリリーフとする見方が多いが、逆に早期解散で与党を勝利に導ければ、来秋の再選にも道ができる。コロナ収束にめどをつけ、東京五輪・パラリンピックの開催も予定通りなら長期政権の芽も出てこよう。

 むろん政界一寸先は闇。何が起こるかは神のみぞ知るである。ただ、菅氏については日頃の物言いや風貌から地味でおとなしい人物像を描きがちだが、実は政界きっての武闘派としても知られる。可能性は大いにある。

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