中国を読む

過剰投資のない成長モデルを 不動産バブル崩壊の可能性も

 三菱総合研究所・猪瀬淳也

 2020年4~6月期の中国の実質国内総生産(GDP)成長率は前年同期比で3.2%増と、1~3月期の同6.8%減からわずか1四半期でプラス成長に復した。内需面からその内訳を見ると、小売売上高は4~6月平均では同4.0%減と減少が続いた一方、固定資産投資(累積を四半期化)では同3.3%増とプラスになった。小売売上高は百貨店やスーパー、電子商取引(EC)などでの売り上げが中心であることからサービス産業の実態が見えないなど多くの問題はあるものの、総じて消費は減少傾向が続く中、投資がカバーしたことで最終的にプラス成長を実現したとみるのが通常であろう。

 インフラなど堅調

 投資の中ではどこが成長したかを見ると、内訳ではインフラ投資および不動産投資の伸びが特に堅調だ。例えば製造業全体の投資額は4.9%減(4~6月の平均、前年同期比)だがインフラ投資は同8.1%増、不動産は同6.5%増と成長が著しい。いずれも総投資額の2割以上、合計すると半分近い割合を占める主要投資領域だが、この両部門が7%前後成長したことで、今回の中国の投資は3%以上の成長になった。

 このうちインフラ投資の成長は、主に地方政府特別債に支えられている。中国政府は上半期に2兆2300億元(約34兆6300億円)の新規特別債を発行した。これに伴い、特別債の残高は10兆元を超える水準まで積み上がっている。特別債の使途は交通インフラや工業団地、民生サービスなどさまざまな用途が記載されているが、収益性の高いインフラ投資がどこまで残っているかは疑問が残る。元建て債券の多くは中国企業や家計の貯蓄を後ろ盾として自国内で保有されているが、近年元の国際化が徐々に進んだことにより中国国外の投資家の保有分も拡大している。仮にインフラ投資の収益性が低いことが明らかになれば、外国人投資家が債券を手放すことで利上げ圧力が高まろう。

 一方、不動産投資を支えているのはほぼ家計による債務だ。中国の不動産バブルは指摘されて久しいが、不動産投資は依然として伸び続けており、既に米国の水準を超えている。さらに、米国は新型コロナウイルス後に落ち込みを見せた一方、中国ではコロナ後さらに拡大している。

 米国よりも人口が4倍以上多い中国において、住宅向けの支出が増えることは自然の流れかもしれない。しかし、少なくとも現状の不動産価格の上昇は実需を反映したものではない。足元で不動産市場が再び活況に転じた理由としては、コロナ禍によって元安が予想されることから中国国内の富裕層が資産を有価証券などから価格上昇神話の根強い不動産に移していることなどが指摘されている。

 不動産バブル警戒

 「国家は破綻する(英名:This Time Is Different)」で一般にも有名になった経済学者のケネス・ロゴフ氏は、8月に連名で中国の住宅に関する論文を公開した。論文内ではさまざまな主張がされているが、中でも中国の不動産も他国の不動産バブル崩壊とほぼ同じ道筋をたどっているという主張は注目される。不動産価格の上昇、建設業の規模、債務の積み上がり状況などさまざまな指標で比較した結果、中国の不動産は今ピークにあるというのが推察結果だ。例えば(1)2、3級(線)都市の空室率が2割以上となりさらに上昇傾向(2)不動産価格を年収で割った値は1級都市で20超え、2、3級都市でも10前後(3)不動産購入者の多くが既に居住用不動産を保有している-などさまざまな側面からみて不動産バブルの警戒を高める情報であふれている。

 中国の不動産バブルが崩壊する時期を予測することは不可能だ。しかし数々のデータを見るに「今回は違う(This Time Is Different)」といえる理由よりも、やはり中国の不動産はバブルであり崩壊する定めであったというべき理由の方が多く見受けられる。そして後者の理由はコロナ禍での投資の急拡大によりさらに強化された。今の中国に真に求められることは、コロナからの急回復をアピールするために投資を増やすことではなく、不動産などの過剰投資に依存しない成長モデルを構築することではないだろうか。

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【プロフィル】猪瀬淳也

 いのせ・じゅんや 東大理卒。2006年三菱総合研究所入社。16年から政策・経済研究センター主任研究員。新興国のマクロ経済・政治情勢分析を担当。博士(経済学)。39歳。神奈川県出身。

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