今年の8月17日はインドネシア独立75周年を迎える年であった。その日、ソーシャルメディアで拡散されたのは「独立75周年記念のスローガンは『インドネシア前進! 子供前進! 義理の息子前進! 義理の兄弟前進!』」であり、これは、今年の末に行われる予定の全国首長選挙にジョコ・ウィドド大統領の息子と義理の息子がそれぞれソロ市長選、メダン市長選に立候補することを揶揄(やゆ)したものである。
与党第一党でありジョコ大統領所属の闘争民主党が、ソロ市の市長候補としてジョコ大統領の長男、ギブラン氏(32)を、メダン市長候補としてジョコ大統領の娘婿、ボビー・ナスティオン氏(29)を公認した。両者とも政治経験はなく、闘争民主党に入党したのも最近であること、既に同党からの立候補を表明していた人物を押し出してまで党が彼らに公認を出したことなどから、そこまでして世襲による権力の継承を狙っているのかとの批判的な声が上がっている。
副大統領らの子息も
ジョコ大統領の親族だけではない。マアルフ副大統領の四女、シティ氏(47)はジャカルタ特別州に隣接するバンテン州南タンゲラン市長選に立候補予定であり、プラモノ・アヌン国家官房相の長男、ハニンディト氏(28)は、東部ジャワ州クディリ県首長選挙に立候補予定である。
これらの動きを受け、コンパス紙が電話で「王朝政治・世襲政治」に関する意識調査を行った結果、6割以上が「うんざりしている」と回答したとの報道がなされた。
スカルノ大統領の娘であるメガワティ元大統領、スハルトの元娘婿で現在国防相のプラボウォ氏を筆頭に、親族が政治キャリアを積んでいくことは珍しいことではない。しかし、ジョコ大統領は今までの政治家とは違い世襲の政治家ではなく、ソロ市長、ジャカルタ知事、そして大統領と実力でトップの座についた新しいタイプの政治家だというイメージがあった。にもかかわらず、他の政治家と同じように、自分の息子や娘婿を政治家に、しかも自分が権力の座に着いている間にそうしようとする動きに国民ががっかりしたのだという。日本と違って首長を狙うというのも、ジョコ大統領の成功体験から来ているようだ。
スハルト時代に反発
日本も、2世・3世議員が占める割合は高い。世襲議員全てが能力に問題があるわけではないし、政治に近い環境で育ったからこそ政治家を目指すことにしたというのも理解できる。しかし、世襲ではない候補者と比較すると、人脈も、資金も、情報も全ての点で勝っている世襲議員の当選確率が高くなる。政治という世界の人の出入りが限られ、一部の人に機会と権力が集中し、それが既得権益化しがちであるという点も否めない。
インドネシアの場合、スハルト大統領とその周辺の人脈だけで全てが決まっていた長い歴史があるため、ネポティズム(縁故主義)への国民の反発は大きい。12月の首長選に注目したい。(笹川平和財団 堀場明子)
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