山本隆三の快刀乱麻

米カリフォルニア州、再エネにシフト中の供給不足 導入の難しさが浮き彫りに

 トランプ氏「輪番停電強いた」

 1998年に電力市場自由化を行った米カリフォルニア州では、2000年夏から供給力が不足する電力危機に陥り、01年前半には輪番停電が40回近く実施された。

 供給力が不足した理由の一つは、01年末に破綻したエンロンなど自由化市場に参入した卸電力事業者が、卸電気料金の上昇を狙って意図的な発電所の停止と供給削減を繰り返し行っていたことだった。

 エンロン破綻後、社内の会話を録音したテープが大量に見つかり、意図的な供給削減が明るみに出た。

 加州政府は、自由化による小売電気料金の上昇を懸念して価格を凍結。小売りを行っていた電力会社は卸電気料金の上昇分を回収できず、更生法申請に追い込まれた。

 今回は設備能力不足

 08年のノーベル経済学賞受賞者、ポール・クルーグマン・ニューヨーク市立大教授は、当時のニューヨーク・タイムズ紙のコラムの中で、市場に適しておらず自由化してはいけないものとして、教育と医療に加え、電力を挙げている。

 加州は全面自由化を中断して今にいたっているが、今年8月、20年ぶりに輪番停電を実施した。今度は自由化市場ではなく、設備能力不足が引き起こした供給力不足だった。

 「民主党のギャビン・ニューサム加州知事が進めた再生可能エネルギー導入政策が停電を招いた」として、トランプ大統領が民主党バイデン候補のエネルギー政策を進めると全米が停電すると非難することになった。

 加州は温暖化対策に全米一力を入れている。自動車の排ガスには連邦政府より厳しい規制を導入し、電気自動車、燃料電池車の導入を促進している。自動車メーカーに対し、販売する乗用車に電気自動車、燃料電池車などの販売比率を設定し、比率を達成できない場合には達成したメーカーから余剰枠を購入することを義務付けている。19年テスラはこの余剰枠の売却で約6億ドル(約635億円)の収益を上げている。

 住宅用太陽光パネル導入も全米一進んでいる。今年からは、低層の建物新築時には太陽光パネルを屋根に設置することが義務付けられた。

 電力供給も再エネ主体にする方針を立て、火力と原子力発電設備を再エネ設備に切り替えている。再エネからの発電量シェアを25年までに50%に、30年には60%にし、45年に100%を目指す州法が制定されている。

 事業用の太陽光発電設備は全米一、風力発電設備は全米5位だが、再エネ設備が増えるに従って需要に合わせ発電ができない問題が徐々に大きくなってきた。

 例えば、コロナ禍により今年前半の加州の電力需要量は、前年同期比7.7%減の893億キロワット時となったが、再エネからの発電量を需要に応じて削減することはできず、電力需要がない時に発電を行ってしまう再エネからの出力制御量は4月に過去最高の3.2億キロワット時に達した。

 全米の発電設備をみると、シェール革命により価格が大きく下落した天然ガスを利用する火力発電所が増え、相対的に競争力が劣る国内炭を利用する石炭火力発電所が減少しているが、加州では18年までの8年間で太陽光・熱設備が25倍の1171万キロワット、風力設備が2.2倍の606万キロワットへ増える一方、火力、原子力発電設備は、合わせて663万キロワットも減少している。安定的に供給可能な発電設備が減少し、お天気次第の発電設備に置き換わっているということだ。

 熱波で浮き彫りに

 この再エネ発電設備へのシフトが、熱波来襲により電力需要が増える中で供給不足を招くことになった。太陽光発電が発電できなくなる夕方からの冷房用電力需要を賄えなくなったのだ。需要量に合わせて発電できない再エネの弱点が熱波来襲により明らかになったが、加州送電管理者(CAISO)は、再エネへのシフトが停電を招くことになったと指摘している。

 今年8月、米国西部は熱波に襲われた。加州デスバレーで8月の世界最高気温華氏130度(摂氏54.4度)を記録するなど、平年より華氏10度から20度(摂氏5.6度から11.1度)高い気温が続き、加州南部では軒並み摂氏40度を超えた。

 このためエアコンによる電力消費量の上昇が予想されたが、供給力不足に陥る可能性があり、8月13日にCAISOは翌14日の午後3時から10時にかけての自主的な節電の呼びかけを行った。

 具体的には冷房温度を華氏78度(摂氏25度)以上に設定し、洗濯機などの家電の使用を控えることを要請した。翌14日午後5時前に、CAISOは停電の可能性があるとする第2段階の緊急事態を発令し、その後輪番停電を行う最終第3段階の緊急事態に切り替え、午後6時半から41万顧客を対象に1時間ごとの停電を約3時間にわたり実施した。

 翌15日夕にも、47万キロワットの発電設備と約100万キロワットの風力発電設備からの供給が途絶したため、風力発電量が回復するまで20分間にわたり20万世帯を停電させた。コロナ禍により家にとどまることが要請されている中での突然の停電は州民を驚かせ、サンフランシスコ市などは、エアコンを用意した避難所を急遽(きゅうきょ)設置して対処した、と報道されている。幸い州民の節電努力が功を奏し、その後、輪番停電は発生しなかったが、現在の電力供給体制では来年以降も同様の問題が発生する可能性ありといわれている。

 16日に、加州政府は緊急事態を宣言し、ニューサム知事は突然の停電と準備不足をわびることになったが、CAISOはこの事態を予測し、加州公共事業委員会に再エネだけでは設備が不足するので安定的な発電設備が必要と数年前から訴えていたと報道された。加州は現在、周辺州からの電力輸入も行っている。熱波などにより周辺州でも電力需要が増えたときには輸入量が減少し、再エネからの発電量が脱落すると停電の可能性があるとCAISOは指摘していた。さらに、蓄電池での対処には再エネと蓄電池の規模を大きく拡大する必要があるので、他州より高い電気料金がさらに上昇する懸念も述べていた。

 この加州の状況について、ドランプ大統領は「加州では民主党が意図的に輪番停電を行い、国民に暗闇を強いた。民主党はエネルギー需要に応えることができない。一方、実際のところ、私は米国のエネルギーを消費しきれないほど、自立させた。バイデン、サンダース、AOC(アレキサンドリア・オカシオ=コルテス)のグリーンニューディール政策は、失敗した加州の政策を全国民に広げることになる」とツイートした。

 再エネ導入の難しさが浮き彫りになったが、民主党は批判にどう応えるのだろうか。それとも無視してやり過ごすのだろうか。

【プロフィル】山本隆三

 やまもと・りゅうぞう 常葉大学経営学部教授。京大卒業後、住友商事に入社。地球環境部長などを経て、2008年プール学院大学国際文化学部教授、10年から現職。財務省財務総合政策研究所「環境問題と経済・財政の対応に関する研究会」、経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。現在、国際環境経済研究所所長、NEDO技術委員などを務める。著書に『経済学は温暖化を解決できるか』(平凡社)、『夢で語るな日本のエネルギー』(マネジメント社)など。

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