【慶祝・台湾 双十節】
台湾は10日、辛亥革命(1911年)に由来する最大の記念行事の双十節を迎える。1月の総統選で817万票という史上最多得票で再選された蔡英文総統は、新型コロナウイルスが世界中に蔓延する中、「先手防疫」を徹底し、感染者と死者を最小限に抑えることに成功している。欧米や日本をはじめ各国にマスクや医療物資を支援するなどの「マスク外交」を展開したほか、8月には米国のアザー厚生長官が訪台し、国際社会における台湾の存在感を示した。台湾の新たな動きを特集する。(台北 矢板明夫)
自由と民主主義を守り広める
蔡総統は5月20日の2期目の就任演説で「今後4年間、国際機関への参加に努め、友好国との共栄、協力を強化し、米国、日本、欧州など価値観を共有する国々との連携を深めていく」との外交方針を掲げた。その宣言通り、2020年の台湾の外交は大きく進展し、国際社会における台湾支持は広がりつつある。
5月にテレビ会議方式で行われた世界保健機関(WHO)の年次総会では、直前に安倍晋三首相(当時)や米国のポンペオ国務長官、カナダのトルドー首相ら各国首脳が、台湾のオブザーバー参加への支持を表明した。世界40カ国以上の600人を超える国会議員もWHOのテドロス事務局長に書簡を送り、台湾の参加へ強い支持を表明した。台湾は5月の総会には参加できなかったが支持は増え続けており、次回以降に影響を与えることは確実だ。
米国のアザー厚生長官は8月、1979年の米台断交以降で最高位の米閣僚として台湾を訪問した。アザー氏は蔡総統と会談したほか、陳時中衛生福利部長(厚生労働相に相当)ら複数の閣僚と交流し、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬開発の協力などについて意見交換。米台の公衆衛生に関する協力覚書の調印にも立ち会った。アザー氏は、コロナ対策に成功した台湾を称賛する一方で、中国が公衆衛生分野で長期にわたり台湾を妨害していることを非難した。
米国との経済交流でも大きな前進があった。蔡総統は8月末、長年の懸案だった米国産牛肉・豚肉の輸入規制の緩和を発表した。将来の自由貿易協定(FTA)締結を見据えた動きとみられ、米国からはクラック国務次官(経済担当)が9月中旬に訪台。王美花経済部長(経産相)らと会談し、米台経済・商業対話に向けた協議を行った。
今年の台湾外交のもう一つの大きな成果は、8月末から9月初めにかけ、東欧チェコのビストルチル上院議長の訪台団を実現させたことだ。地方の首長や企業家ら約90人が中国の反対を押し切り台湾を訪れた。立法院(国会)で演説したビストルチル氏は、1963年に米国のケネディ大統領が冷戦下の西ベルリンで「私はベルリン市民だ」と語った歴史的な演説になぞらえて「私は台湾人だ」と語り、人々に大きな感動を与えた。ビストルチル氏は何度も「台湾の民主主義と自由を支持する」と強調した。
蔡総統は8月にオンラインで行った米シンクタンクの講演で「台湾は民主的な価値を守る最前線に立ち、インド太平洋地域の自由のとりでとなる」と語った。その言葉通り、蔡政権は香港国家安全維持法が施行された香港市民に対しても、人道的な支援を強化する方針を打ち出している。