山本隆三の快刀乱麻

危うい「自然エネ立国」政策 経済の衰退招くリスク

 9月25日付朝日新聞は1面トップで「再エネ比率急上昇」と伝えた。コロナ禍で電力需要が落ちる中で出力調整ができない再生可能エネルギーの比率が上がるのは当然だが、米カリフォルニア州では今年4月の再エネ出力制御量、要は捨てる量が過去最高になり、ドイツでは需要が落ち込む中で消費者が負担する1キロワット時当たりの賦課金額が増えてしまい、電気料金上昇を避けるため税金を投入することになった。再エネ比率上昇はいいことばかりではない。

 一方、報道によれば衆議院選に臨む立憲民主党の政策の中心は「自然エネルギー立国」のようだ。コロナ禍からの回復を再エネ投資主体に行う発想は、今後4年間で2兆ドル、200兆円以上の資金を、再エネ、電気自動車、インフラなどにつぎ込む米大統領選の民主党候補、バイデン前副大統領の政策にも似ている。

 しかし、この政策を日本で実行することは間違いだし不可能だ。温暖化対策を進めることには誰も文句のつけようがない。自然エネルギーは美しい言葉に違いない。その導入には問題がなさそうだが、政策には常にトレードオフがつきまとう。何かを達成すれば、何かが達成できなくなることをよく考えなければいけない。自然エネルギー立国が仮に実現すれば、「国破れて再エネあり」になり、多くの人が雇用を失い、給与の減少を嘆くことになる。

 バイデン氏の政策は米国では組合から批判されているが、再エネに特化した立憲民主党の政策ではさらに悪影響が大きくなる。大きな再エネ導入は日本経済にマイナスの影響を与え、少子化は止まらず、雇用は失われる。立憲民主党の支持基盤である労働組合も困ることになるのだが、分かっているのだろうか。

 ◆縮小し消える国に

 少子高齢化が大きな問題といわれているが、その深刻さは国民にどれほど理解されているのだろうか。人口はやがて1億人を切る程度の理解をしている人が多いが、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると日本の人口は2100年に6000万人を切り現在の半分以下になるとみられている。2115年には5000万人だ。経済大国日本は、その人口が支えている。日本の人口は今世界11位、先進国では米国に次いで2位だ。先進国3位のドイツの人口は約8400万人、日本の約3分の2だが、2100年には逆転する。

 世界でも例をみない人口減少が進む中で日本は経済大国の地位を失うが、小さくても幸せな国を目指すことは難しい。社会が1億3000万人の人口を前提に作られているからだ。人口が半分になるから、道路も電線も維持できませんといわれても生活には必要だから困ってしまう。人口減少を食い止めるためには出生率を上げることが必要だが、そのためにはお金が国にも個人にも必要だ。

 待機児童をなくすなどの政策は必要に違いないが、50歳男性の未婚率が4分の1に届く状況を作っている大きな理由の一つはお金だ。内閣府の調査では収入は男性の結婚しない理由の第2位だが、1位の「1人が気楽」との差はあまりない。30歳代独身男性では48%が結婚しない理由にお金を挙げている。国にお金があれば、育児に関するさまざまな支援を行うことも可能だろう。必要なのはお金だが、企業と家計の支出には電気料金が結構大きな影響を与えている。

 2012年に当時の民主党政権は再エネ導入支援のため太陽光、風力発電などの再エネの電気を高く買い取る固定価格買取制度を導入した。当初の買取価格が世界でも例を見ないほど高く設定された太陽光発電設備を中心に設備導入は爆発的に増加した。ほとんどリスクがなく高収益が保証された投資だったため、土地代が相対的に安い九州南部を中心に仕立てた案件への投資家募集の広告がネット上にあふれるほどだった。

 結果、電気の需要家が負担する賦課金額は、導入初年の1キロワット時当たり0.22円から20年には10倍以上の2.98円に膨らんでしまった。夫婦と子供1人の家庭だと負担額は年間1万円になる。18年度の家庭用電気料金は全国平均1キロワット時22.52円だが、当時の負担金2.9円がなければ、19.62円と20円を切っていた。18年度の産業用電気料金平均は15.18円だった。賦課金額は料金の2割近くを占めている。仮に賦課金がなければ、人件費にこの金額を回すことができたかもしれない。例えば化学業界では賦課金額は人件費の5%にも相当する。全製造業では2.6%になる。

 ◆雇用も収入も減少

 バイデン氏の再エネ導入政策発表後、民主党支持基盤の組合から批判の声が上がった。その理由の一つは、再エネが大きな雇用を作らず逆に失われる雇用が大きいことだ。建設関係組合は、化石燃料関連工事、例えば製油所建設などに比較すれば再エネ関連工事は工期が短く、再エネシフトは雇用にはマイナスと指摘している。

 米国で発電設備運転に必要な人員は100万キロワット当たりにすると風力発電64人に対し原子力425人だ。再エネは初期投資額が大きくなるが、一度作ってしまえば雇用はほとんどない。日本でも化石燃料関係の雇用は輸入から使用までさまざまな場面であるが、再エネシフトにより雇用を失うだろう。しかも、発電コストが下がるメリットがあるわけでもない。人件費の部分が償却費に代わるだけだ。設備導入を進めても中国からの太陽光パネルの輸入が増えるだけで、日本企業に大きなお金が落ちるわけでもない。

 米国の産業別給与をみると、再エネ関連の仕事の給与は相対的に良くなく、米国の組合からは再エネシフトにより減収になるとの指摘がでている。組合が支持基盤の政党が雇用も収入も失う再エネ導入を打ち出すのは驚くしかない。

 今必要な政策は、給与を増やし国民の生活を豊かにすることだ。そのためには収入の高い雇用を作り出すことだ。少子化を止め、地方を豊かにするために必要なのは雇用を生まない再エネではない。再エネでは建設雇用がなくなれば、地域に人はいなくなる。しかも、地域にお金は落ちず、お金は投資家の懐に入るだけだ。自然エネ立国は国を豊かにはしない。

 人口が2100年までに1億人増加すると予想されている米国と日本の状況は全く異なる。バイデン氏は、再エネに加え小型原子炉導入も政策として打ち出している。温暖化対策は、原子力発電でも可能ということだ。日本が必要なのは再エネではなく、これから世界が必要とする蓄電池、小型原子炉、水素などの技術開発で欧米と競うことではないか。再エネ導入により設備製造の中国を喜ばすことではないはずだ。これから国民が豊かな生活を送るために何が必要かよく考えて欲しい。聞き心地の良い言葉だけを掲げるのは正しい政策ではないだろう。再エネ大国が作り出すのはお先真っ暗な日本だ。

【プロフィル】山本隆三

 やまもと・りゅうぞう 常葉大学経営学部教授。京大卒業後、住友商事に入社。地球環境部長などを経て、2008年プール学院大学国際文化学部教授、10年から現職。財務省財務総合政策研究所「環境問題と経済・財政の対応に関する研究会」、経済産業省産業構造審議会臨時委員などを歴任。現在、国際環境経済研究所所長、NEDO技術委員などを務める。著書に『経済学は温暖化を解決できるか』(平凡社)、『夢で語るな日本のエネルギー』(マネジメント社)など。

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