論風

コロナ後の経済安全保障 日本は新国際秩序形成の要に

 □日本危機管理学会会長、国際社会経済研究所上席研究員・原田泉

 新型コロナウイルスで社会が大きく変わった。なかなか進まなかった企業や組織のデジタルトランスフォーメーション(DX)化が、急速に進んでいる。特にテレワークやリモートワークの一般化で、働き方や勤務形態が変わり、オフィス空間の変化、公共交通機関などに後戻りのない変革の波が押し寄せている。本社の地方移転や従業員の地方移住も進むとみられ、地方に人材が戻り、都市と地方の関係が変わろうとしている。

 このことは4月16日付の当欄で書いた、わが国独自の分権的エッジ人工知能(AI)国家、分散クラウド・エッジAI型のコミュニティーネットワーク民主社会の実現に追い風となっている。そこではコミュニティー間、コミュニティーと国との間のネットワークを「つなぐ」技術とサービス、そこでのセキュリティーと個人情報保護の制度やシステムが鍵となる。

 ◆高まる国外からの脅威

 海外に目を向ければ、11月の米大統領選挙を控え、米中新冷戦が激化している。わが国にとってその影響は大きく、政府は緊張緩和とブロック化防止の外交努力は無論のこと、他方では経済安全保障の強化が喫緊の課題となっている。経済安全保障では、経済と安全保障が密接に関係する分野、AIや5G、ドローン、半導体や衛星利用測位システム(GPS)など軍事転用可能な技術の流出防止や輸出管理などが対象となる。政府は昨年から安全保障上のリスクがある通信機器を全省庁で調達しないと決め、今年4月には内閣官房国家安全保障局に経済安全保障を専門とする経済班を発足させた。民間企業では、コロナ禍も加わりこの観点からの海外での情報漏洩(ろうえい)を考慮しサプライチェーン(供給網)や海外生産拠点の見直しが迫られることとなった。

 このような状況下、国内では企業や大学に対する他国のスパイ行為の予防も重大な課題となっている。新聞によると、政府は先端技術を扱う民間人について、信用度を保証する資格制度を創設する方針を固めた。また自民党は企業や大学での従業員や研究者らによるスパイ活動を抑えるため、政府に対策拡充を促す提言を年内にまとめるとのことである。さらに今後は政府機関だけでなく関係の企業や大学などでも、サイバー攻撃に強いネット環境づくり、取引企業からの情報漏洩防止や業務委託先のセキュリティー強化のため、重要先端技術へのアクセス権付与や共有の方法、取り扱い基準を示した米国の情報管理の指針「NIST SP800-171」の普及が急務となろう。

 ◆サイバー攻撃対処能力強化を

 そもそもわが国のサイバーセキュリティーは、欧米製品や欧米由来の情報に大きく依存しており、その自給率は低く、国産技術や情報の収集・分析の点で海外に後れを取っている。この点を改善しオープン型の研究開発や人材育成の基盤を構築して産学官で連携してサイバー攻撃への自律的な対処能力を高めることが肝要である。同時にサイバー空間での安全を推進する国際的な企業間の取り組みであるサイバーセキュリティー・テック合意「Cybersecurity Tech Accord」やサイバーセキュリティーに関する国際的な信頼性憲章である「Charter of Trust」に積極的に参加し情報交流をする必要があろう。

 今後わが国は、経済外交面で中国依存を徐々に縮小しつつ信頼醸成を深化させ、経済安全保障面では技術力強化と価値観を同じくする国々との協力強化を進めていかねばならない。そして自由と民主主義、法の支配、人権の尊重、専守防衛といった原則を堅持しつつ、新しい国際秩序のために、物流ばかりでなく人材交流も「つなぐ」要としての役割を率先して担っていくべきであろう。これが先述の地方分権的なコミュニティーネットワーク社会とあわせて権威主義的国家に対抗し平和共存し得るわが国の在り方だと考える。

【プロフィル】原田泉

 はらだ・いずみ 慶大大学院修士修了。日本国際貿易促進協会などを経てNEC総研から国際社会経済研究所へ。早稲田大学非常勤講師なども務める。東京都出身。

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