海外情勢

仏のチンギスハン展検閲問題「中国が歴史書き換え要求」 館長に聞く

 【パリ=三井美奈】フランス西部のナント歴史博物館のベルトラン・ギレ館長は15日、産経新聞のインタビューに応じ、中国の検閲を受け、来春予定していた「チンギスハンとモンゴル帝国の誕生」展の開催見送りを決めた経緯を語った。「中国の要求は(モンゴル帝国の始祖である)チンギスハンを展示から消すこと。歴史の書き換えであり、受け入れられないと判断した」と述べた。

 ギレ氏によると、同館は3年前から、中国の内モンゴル自治区フフホトにある博物館と協力し、展示の準備を進めていた。1年半前に正式調印した際、何の問題もなかったという。

 だが、7月ごろ、中国政府が突然介入してきた。フフホトからモンゴル族の文書や武具など200点以上の展示品をフランスに送るため、国外移送の認可を申請したときだった。「チンギスハン、モンゴル、帝国」の文言を削減せよ、という要求が来た。

 ギレ氏は「当初はチンギスハンを強調しすぎないよう、展示会の題名を変えればよいだろうと思った。『天空と草原の子 チンギスハンとモンゴル帝国の誕生』に改め、テーマを副題に盛り込むことを提案した。だが、中国側は満足しなかった」と話した。中国政府が代案として示した展示名称は「一体化、相互学習、統合」。副題は「12世紀以降の中国の北方草原」だったという。

 中国側はさらに、展示説明や地図をすべて提示するよう要求。その上で、内容の抜本的な変更を求めた。ギレ氏は「モンゴルや満州という固有名詞への言及はダメだといわれた。彼らの主張ではすべて中国の一部であり、モンゴル族は『少数民族』の扱いでなければならない。中国の歴史を強調し、チンギスハンの歴史を押しつぶそうとした」と回想した。ナント博物館からの電子メールによる説明要求に対し、中国側からは一切返答がなかった。

 ナント博物館では、人物や歴史を紹介するパンフレットや展示説明文をすべて作成済みだったが、「中国側の要求は、史実から離れた内容への変更でしかない」と判断。8月末に計画中止を決めたという。

 チンギスハンを題した展示会は日本でも開かれたことがあり、今回は、名称削除の要求が表面化する異例のケースとなった。ギレ氏は9月、内モンゴル自治区で中国語教育が強化されたことに触れ、「中国政府の突然の介入は、少数民族への方針が硬化したためではないか」と述べた。

 ナント博物館は米欧にある所蔵資料を基に、当初計画に沿って2024年の展示会開催を目指しており、モンゴル国にも協力を求めている。13世紀、モンゴル帝国は欧州に侵攻し、当時の記録がバチカンやハンガリーなどに残されている。

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