カンボジア観光省などによると、今年1~9月に同国を訪れた外国人客は約125万人で、前年同期より74%減少した。新型コロナウイルスの感染拡大が大きく影響しており、カンボジア政府は観光業の回復に向けて、中国など特定の国・地域との間で観光客などの往来を活性化する「トラベルバブル」を検討したいとしている。
外国人客74%減少
地元紙が報じた観光省の統計によると、1~9月にカンボジアを訪れた外国人客は前年同期比74.1%減の124万7680人。同じく1~9月に国内を移動した旅行者は728万4409人で、これも前年同期比で51.9%減少した。
さらにカンボジア観光省は、2020年の年間外国人訪問客数は132万人にとどまり、前年より80%も落ち込むと予測している。国内の旅行客については、乾期の旅行シーズンに入ったことや、10月末からの「水祭り」の連休などを見越して年間900万人にまで伸びると予測。それでも前年比で20%の落ち込みとなる見通しだ。
カンボジアにはアンコール遺跡群、プレアビヒア寺院、サンボープレイクック遺跡の3つの世界遺産があり、なかでも北西部シエムレアプ州にあるアンコール遺跡群は、世界遺産の中でも人気の高い観光地として知られている。
しかし、新型コロナの感染予防のため、カンボジア政府は今年3月から観光ビザの発給を停止。外国人の入国希望者には、出発国と到着時のPCR検査や14日間の隔離、さらに検査や隔離に伴う費用、治療が必要になった場合の治療費として2000ドル(約21万円)のデポジット(保証金)を義務付けている。
こうした厳しい水際防疫策のため、カンボジアの観光業界は瀕死(ひんし)の状態にある。観光地では閑古鳥が鳴き、ホテルやゲストハウス、レストランなどの閉鎖や休業が相次いでいる。カンボジア観光省は、この状態が新型コロナ前に戻るまでには3年から5年かかるだろうとみている。
国内市中感染なし
一方で、カンボジア国内では新型コロナの感染は抑制されている。10月30日までの感染者数は290人で、そのうち治療中は7人だ。これまでに死者は確認されておらず、感染者のほとんどが「外国由来」であることから、市中感染はほぼ確認されていない。また、大規模な都市封鎖や外出禁止令は出ていない。感染予防の観点から教育機関は全国的に休校となっていたが、8月から少しずつ再開し、11月には全国で新学期が始まる見込みだ。
国内での感染拡大が抑制傾向にあるため、カンボジア政府は国内旅行を推進している。しかし、新型コロナの影響で職を失ったり、収入が激減したりした国民も多く、旅行の経済効果は高くない。国内旅行が、外国人観光客に依存してきたカンボジア観光業を救済するまでには至っていないのが現状だ。
そこでカンボジア観光省が期待を寄せるのが、中国との間での「トラベルバブル」だ。カンボジアへの外国人観光客のなかで最も多いのが中国人で、同省も新型コロナ以前より、中国への観光振興策を最優先する姿勢をとっていた。
トラベルバブルとは、主に近隣国や結び付きの強い国との間で、新型コロナに対する感染が抑制傾向にあるなど特定の条件のもと、感染防止策を講じたうえで観光客を含む旅行者の往来を受け入れる取り組み。バブル(泡)を、同一の条件下にある安全圏とみなし、その中に入る国同士の往来を開放する手法だ。クメール・タイムズ紙などによれば、観光省は、民間の旅行業セクターとともに、中国とのトラベルバブルが可能かどうか協議しているという。
同紙によると、カンボジアホテル協会のチェンダ会長は「中国はどの大国よりもカンボジアに近く、世界最大のツーリズムマーケットでもある」と、中国とのトラベルバブル策に期待感を寄せている。しかし、「政府のターゲットが富裕層のみであり、団体旅行客には焦点を当てていない」「中国ももちろん大事な市場だが、隣国のタイやベトナムとのトラベルバブルがまず先ではないか」といった意見も出ているという。また、政府間協議はまだ始まっておらず、実施には時間がかかりそうだ。(カンボジア情報誌「プノン」編集長 木村文)