カンボジアを公式訪問していたハンガリーのシーヤールトー外務貿易相が3日、次の訪問地だったタイで、新型コロナウイルス陽性と診断された。その後カンボジア政府は1680人の接触者を追跡し、検査。13日までに外務貿易相と接触のあった4人の感染を確認した。カンボジアでは13日までの感染者の累計が301人と他国に比べて極めて少なく、政府はこれ以上の感染拡大を防止するために厳戒態勢を敷いている。
1680人追跡調査
地元紙によると、シーヤールトー外務貿易相は滞在中、カンボジアのフン・セン首相はじめ、外務国際協力相、商業相、農林水産相など多くの閣僚と会談していた。同行者の多くがマスクをしていたが、会談時には要人同士はマスクをせず、密接して歩く様子も報道されていた。カンボジア政府の発表によると、外務貿易相一行は、カンボジア入国時に新型コロナ陰性の証明書を持っていたという。
外務貿易相の感染が伝えられると、カンボジア政府は、フン・セン首相を含む接触のあった閣僚が検査と自己隔離を開始。保健省は接触のあった関係者やその家族らを追跡し、13日までに1680人にPCR検査を実施したという。その結果、外務貿易相の警備に当たったカンボジア人、カンボジア政府農林水産省の次官、カンボジア人民党の報道官、ハンガリー人外交官の4人が陽性と診断された。4人以外は陰性だったが、保健省は全員に14日間の隔離を求めている。
また、カンボジア政府は教育現場での感染拡大を懸念し、プノンペンと、隣接するカンダール州の公立・私立全ての教育機関の一時閉鎖を指示した。全ての学校に対し、リモート授業に切り替えることが通達された。ハンガリー外交団と接触のあった政府官僚が訪問したプレアシアヌーク州でも、一部の学校が休校となった。
さらに政府は、公共機関の会議やセミナーを2週間中止とし、スポーツなど人の集まるイベントを休止するよう通達。カラオケやクラブ、映画館、博物館などの娯楽・観光施設も閉鎖された。また、フン・セン首相はプノンペン市に対し、備蓄されているマスク200万枚を貧困世帯や路上でマスクを着けていない人たちに配布するよう指示した。
ハンガリー外交団のコロナ感染に伴う首相らの自己隔離や一連の迅速な感染予防対策は「11月3日事案」と呼ばれ、これまで市中感染がほぼ確認されていなかったカンボジア国民に大きなショックをもたらした。なかには、「緊急事態宣言が出てプノンペンが都市封鎖され、州をまたぐ移動が禁止される」といった噂も飛び交った。
これに対しフン・セン首相は自身のフェイスブックで、「国の代表者として、緊急事態宣言を出す考えはなく、都市封鎖や移動規制もしない。こうした噂を広める悪い人間には、国を混乱に陥れようとする意図がある。国民は、マスクをして、手を洗い、適切な距離を保つことで感染予防を心掛けてほしい」と呼びかけた。
また、カンボジアのソコン外相は、「ハンガリーのシーヤールトー外務貿易相と電話で会談し、意図的でないとはいえ、みなさんに大変ご迷惑をおかけしたとの言葉をいただいた。外務貿易相の来訪は、両国の絆を強めることに大変役立つものだった」として、一部に聞かれる外交団訪問への批判を牽制(けんせい)した。
防疫対策強化へ
一方でカンボジア政府は、外国由来の感染を最小限に抑え込むべく、水際の防疫対策を18日から強化する。中国、日本、韓国、ベトナム、タイ、米国、欧州連合(EU)諸国の外国人で、かつカンボジア国内に登録された企業から身元保証(関係経費の支払い保証)を得た人を除く全ての外国人は、到着後14日間、保健省指定のホテルなどで強制隔離されることになった。カンボジアに入国する全ての外国人には、出発国でのPCR検査による陰性証明書の取得、さらには到着時のPCR検査が義務付けられているが、これら2度の検査で陰性であっても14日間隔離されることになる。また、在外公館による観光ビザは引き続き発行停止になっている。カンボジア政府としては、自国の経済活動に資する外国人の受け入れは断ちたくないため、入国する全ての人を追跡可能な状態に置くことで感染拡大を防ぐ狙いだ。(カンボジア日本語情報誌「プノン」編集長 木村文)