衆院憲法審査会は19日、今国会初の自由討議を行ったが、憲法改正原案をまとめるための具体的な議論は深まらなかった。新型コロナウイルスの感染に歯止めがかからない中、緊急時の対応を記した「緊急事態条項」を憲法に盛り込む動きも先の通常国会から一向に進展が見られない。国民の生命を守るべき国会の責任が改めて問われている。
「『全集中の呼吸』で取り組むべきだ」。自民党の船田元氏は憲法審で人気漫画「鬼滅の刃」の主人公の竈門炭治郎(かまど・たんじろう)らが繰り出す技を引用し、緊急事態条項創設の必要性を強調した。大規模災害やコロナなどの感染症のパンデミックの危険性を根拠に挙げた。
災害に対応するための緊急事態条項は、自民が改憲議論のたたき台と位置付けている4項目の条文イメージ案に含まれる。下村博文政調会長らはこれに感染症も念頭に置くべきだと主張。憲法審の与党筆頭幹事を務める新藤義孝元総務相は「コロナ禍における国会機能を確保する観点から(憲法で規定されている)本会議の定足数や国会議員の任期についても議論が必要ではないか」と強調した。
しかし、「全集中の呼吸」を他党が共有しているわけではない。
改憲に慎重な立憲民主党の大串博志氏は「憲法改正や国民投票法改正が自己目的化しているととらえられると、かえって物事はうまくいかないだろう」と述べ、改憲論議の加速を目指す自民党を牽制(けんせい)した。
立民や共産党は、自民が改憲論議を促すため年内に4項目の条文案を独自に策定する方針を示したことも批判した。立民の中川正春氏は「与野党の信頼関係が崩れている」と断言した上で、自民が条文案を一方的に押し付けてくる疑いが払拭できないと指摘した。
野党側が今後、条文案の策定を理由に交渉のテーブルにつくことを拒む可能性もある。だが、こうした抵抗は想定済みのはず。国会議員、特に憲法改正を「党是」とする自民には、国民のために憲法の課題と向き合い、具体的な成果を出すという自覚が求められている。(沢田大典)