税制改正大綱決定

恩恵は大企業や余裕のある世帯へ 格差拡大の助長も

 令和3年度税制改正大綱には、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた企業や個人の税負担を軽減するメニューが並んだ。ただ、多くの恩恵は自動車や住宅といった国内経済への影響力が強い特定の業種のほか、投資する余力のある大企業に向かう。家計支援でも家や車を購入できたり、贈与を検討したりする余裕がある一部の富裕層世帯向けの優遇策が目立ち、経済格差を助長しかねない面もある。

 今回の税制改正ではコロナ禍で落ち込んだ車や住宅の販売を盛り上げるため、環境性能の高い車を対象にした車検時や車購入時の税負担の軽減、住宅ローン減税の特例の延長が目玉施策として盛り込まれた。

 ただ、自動車や住宅業界の業績はここにきて回復傾向にある。11月の国内新車販売台数は10月に続き2カ月連続でプラスを確保。2桁台の減少が続いた新設住宅着工戸数も9、10月は2カ月連続で一桁台に踏みとどまり、最悪期は脱した。

 このため既に支援の必要性は薄いとの指摘もあり、中小企業の経営者などからは「いまだに回復が見込めない飲食や旅行業界の支援を重視した税制対策が必要だ」との声も聞かれる。

 デジタル化や脱炭素化といった政府の重点政策を後押しする施策も、関連する投資行う企業を税優遇する制度設計で、内部留保をため込み投資余力のある大企業を狙ったものだ。さらには足元の赤字を翌年度以降の黒字と相殺して法人税の負担を軽減する措置も大企業向けに拡大する大盤振る舞いで、明日の資金繰りにも苦慮する中小・零細企業への配慮が欠けている。

 個人向けでも待遇の差が目立つ。若い世代の子育て負担を軽減するため教育資金の援助に贈与税がかからないようにする特例措置が延長されたが、相続財産の少ない層にはほとんどメリットがない。富裕層の節税を防ぐため適用条件の厳格化を併せて行ったとはいえ、世代をまたぐ格差の世襲を助長する懸念がある。

 ここ数年の税制改正をみても昨年10月の消費税増税に加え、年収850万円超の会社員の所得税増税、たばこ税や一部の酒税の引き上げなどが相次ぎ、収入に占める支出の割合が多い中間層以下の負担感が強い。逆に富裕層に恩恵が大きい個人が持つ株式の売却益や配当金といった金融所得への優遇税制の縮小は今回も見送られ、株価好調の中で持つ者と持たざる者の経済格差は広がる一方だ。(林修太郎)

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus