海外情勢

英EU交渉決裂への懸念 備蓄に買い占め、渋滞…すでに方々で影響

 【ロンドン=板東和正】英国と欧州連合(EU)による自由貿易協定(FTA)交渉の決裂が現実味を帯び始め、年明けからの物流に支障が出ることへの懸念が強まっている。英EU間で離脱前の関係が維持される「移行期間」が残り約2週間となる中、英国内では食料品の買い占めといった混乱が発生。英EU双方は交渉決裂の影響を抑制する対策を準備しているが、どこまで緩和できるかは不透明だ。

 「交渉の『時間切れ』が迫っている。市民の生活はパニックに陥る寸前だ」

 ロンドン市内のスーパーの男性店員(38)は14日、不安げに話した。

 交渉で合意できなかった場合、年明けから英EU間で関税が復活する。英仏国境などに設置される税関で煩雑な通関手続きが必要になり、国境の検問では大規模な渋滞が予想される。英政府はフランスからの物流量が最大で80%減少すると試算しており、EUからの輸入に依存する食料品や医薬品が英国内で不足しそうだ。英BBC放送によると、食料品の価格は品不足や関税の影響で約5%上がる可能性がある。

 米製薬大手ファイザーなどが開発し、英国で8日に投与が始まった新型コロナウイルスのワクチンも、主に製造拠点のベルギーから英仏間のドーバー海峡経由で輸送されている。40代の看護師の女性は「接種のスケジュールに影響が出ないか心配だ」と話した。

 英国の小売業者は交渉決裂に備え、食料品などを備蓄するために輸入を急いでいる。このためドーバー海峡のユーロトンネルでは12月初旬頃から、貨物車の渋滞が発生。さらに、ロンドン郊外で食料品を大量に買い占める市民が増え始め、英スーパー最大手のテスコはパスタなどに「1人3個まで」と表示を掲げた。

 EUは交渉決裂の際の混乱を避けるため、年明けから6カ月間、従来通りの陸・空路の旅客・貨物輸送を保証する緊急措置案を発表した。しかし、措置案には、英EUの漁船が来年末まで互いの水域で操業できることも明記。英メディアによると、英海域を自国で管理したい英政府は漁船に関する項目を拒否する方針とみられている。EUの措置は「英国が同様の措置をとる」ことが条件のため、英政府が一部の内容を拒絶すれば、実現しない可能性がある。

 混乱への対応をめぐっては、英政府も来年1月から、仏カレー港と英ドーバー港の間でトラックを搭載できるフェリーを増便するほか、EUからワクチンや医薬品を運ぶため軍用機を投入する方針だ。ただ、代替輸送が実施されても、ドーバー海峡経由の大量の物流量をカバーしきれる保証はない。

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