高論卓説

尋常ならざる2020年

 今年2月、ダイヤモンド・プリンセス号集団感染への対応で横浜港に自衛隊員が投入されていた週末のこと、私は東京・立川にある国営昭和記念公園で開かれた市民ランナー向けの30キロロードレースに出場していた。公園の隣は陸上自衛隊立川駐屯地であり、慌ただしく離着陸するヘリコプターを目の当たりにし、尋常ならざるものを感じた。その後、エントリーしていた春のマラソンは全て中止となり、朝のランニング途中で見ていた小学生の通学風景は消えた。

 市中感染は広がり、4月から5月にかけて緊急事態宣言が出されたが、それが解けた頃、日本人の差別意識の根深さを実感する出来事があった。私は地方自治体に出向き助言する政府事業のアドバイザーを務めている。地方圏の某市行政職員と地元企業の幹部から、「来訪は絶対に止めてほしい。もし市内で感染者が出たら、海外から働きに来ている技能実習生が元になったという風評が広がる」といわれた。正しくこれは、人権問題である。

 首都圏居住の私に対するだけでなく、実習生に対する差別、人権の侵害である。その企業はコロナ渦、実習生に外出を認めず、狭い寮や事業所に閉じ込める、まるで奴隷のような扱いをしているのだろう。

 そういえば米国務省では、日本の技能実習制度を借金返済のための強制労働(債務労働)と定義し、人権上、大きな問題をはらんでいると指摘している。それがコロナ渦で深刻化している状況といえよう。

 4月から担当している大学の授業は、秋学期になってもオンラインで行われている。Zoom(ズーム)により時間割通りリアルタイムで授業を行っているが、事前に収録した講義の動画やパワーポイントの資料などをサーバーにそのままアップロードし、学生にはそれを見た上でレポートを書くよう求めるオンデマンド型が多いと学生から教えられた。

 そしてそれは、学生に評判の悪いものだという。双方向性のない教材提供だけでは、モチベーションを維持できず負担も大きいのだ。そこで私は、リアルタイムの授業内に感想を書いてもらい、それに対してコメントを返すというフィードバックを行っている。アフターコロナの経済社会再建を担うのは若者たちである。ロストジェネレーションをつくらないよう若者に寄り添うことが、バブル崩壊から始まった1990年代の金融危機やリーマン・ショック後の景色を見てきた者の責任であると思うからだ。

 周知の通り、年の後半に入ってからはGoTo事業など政府の経済対策が始まった。しかし、相変わらず高齢者や基礎疾患を持つ者の重症化が続く中で、健康な若い世代が引き起こすリスクがことさら強調されている。その結果、大学生は自由に大学構内に入れず、その一方で高齢者は毎日、不自由なく街に出て人との交流を続けている。高齢者を中心に重症者が増えることで医療崩壊が起こるというのならば、年齢、基礎疾患の有無などにより、きめ細かな行動制限をかけるべきではないか。

 これ以上、若い世代が学びや多様な経験の機会を失う事態は避けなければならない。もちろん、現役世代が働く場を奪われていく状況を放置することも許されない。政府は国民の日常に目を凝らしつつ、他国とは異なる感染の実態を冷静に分析し、感染症指定の見直しや若者、現役世代のワクチン接種の進め方、地域における医療・保健の機能強化などを含めた、アフターコロナの経済社会再建戦略を決めてほしい。

 井上洋(いのうえ・ひろし) ダイバーシティ研究所参与。明大講師。早大卒。1980年経団連事務局入局。産業政策を専門とし、2003年公表の「奥田ビジョン」の取りまとめを担当。産業第一本部長、社会広報本部長、教育・スポーツ推進本部長などを歴任。17年退職。東京都出身。

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