政府が21日に決定した基本方針のもと、来年9月に発足するデジタル庁では、まずは新型コロナウイルス対応で浮き彫りになった行政のデジタル化の遅れの解消を狙う。一方、社会全体のデジタルシフトを図る上では課題も山積する。デジタルが苦手な高齢者支援やサーバーセキュリティー対策も欠かせない。デジタル改革を牽引(けんいん)する人材をいかに確保できるかも焦点だ。
世界競争力27位
「歩みを止めることなく、デジタル改革を強力に進めたい」。基本方針決定後の会見で、平井卓也デジタル改革担当相は語った。
しかし、日本のデジタル化の遅れは深刻だ。63カ国・地域中で27位-。スイスの国際経営開発研究所が発表した2020年の世界のデジタル競争力順位では日本は4つ順位を落とし、出遅れがあらわになった。
基本方針では「誰一人取り残さないデジタル化」を基本理念に据えた。高齢化社会の先頭を走る日本ではスマートフォンなどを使ったことがない高齢者らへの配慮が肝要だからだ。これまでIT政策がうまくいかなかった理由に、「取り残される人がいるから進めない」という風潮があったことは否めない。新たな格差をつくらないためにも、「不慣れな人をサポートする具体策が求められる」と日本総合研究所の野村敦子主任研究員は指摘する。
同様にセキュリティーに対する不安解消も必須となる。マイナンバーカードはオンライン上で本人確認ができるICチップが付いており便利に使えるが、カードを通じて情報が漏れるのではないかとの不安もあり、普及率は2割にとどまる。利活用される個人情報などのデータが増えれば、システムの脆弱(ぜいじゃく)性を突いた不正アクセスなどの問題が生じる懸念は大きく、対策は一段と重みを増す。
こうした課題に取り組む上で鍵を握るのが人材育成だろう。経済産業省では30年に国内のIT人材の不足が最大79万人に達すると推計する。民間企業ではNTTデータがIT能力の高い人材を年収3000万円以上で雇用する制度を導入するなど、争奪戦の様相を呈してきた。
官民往来の仕組み
IT人材の不足は500人規模での発足を目指すデジタル庁にとってもハードルとなる。民間企業で実務経験のある人材を100人以上起用する予定で30人程度を先行的に4月に採用する。兼業やリモートワークを柔軟に認め、優秀な人材を確保したい考えだが、年収の目安は700万~千数百万円程度と民間に見劣りし、必要な人材を確保できるかは見通せない。人材底上げには「米国のように有能な人が官民を行き来できる仕組みが必要になる」(野村氏)。
デジタルトランスフォーメーション(DX)でビジネスや社会構造が大きく変わろうとする中、日本が後れを取り戻せなければ、国力の低下にもつながりかねない。だからこそ、デジタル庁には官民のデジタル改革を一気に進めるべく強い権限を持たせ、挽回を図ろうとしている。当面は省庁や自治体の垣根を越えたシステムの大改革などの実行力が問われるが、一方で改革を通じて生活をどう改善できるかといった国民目線の対応も必要になる。(万福博之)