専欄

中国・秘密のベールに包まれた国家主席の食事

 以前ワシントンに行ったおり、ホワイトハウスを見学した。「国民のもの」だからという理由で、プライベート部分ぎりぎりまで公開されているのに驚いた。(ノンフィクション作家・青樹明子)

 こんなに公開度の高い米国になく、秘密が多いとされる日本にあるのが「首相動静」(朝日新聞)報道である。「総理、きのう何してた?」(NHK)「首相の一日」(読売新聞)「首相日々」(毎日新聞)などで、総理番といわれる記者たちの克明な取材だ。首相がどこで誰と会っているかからは、政府の抱える課題が透けて見え、プライベートな食事からは、総理の人となりが垣間見られる。

 中国はどうなのだろう。

 中国では、国家主席など国家の要人の動静は公表されるもの以外は秘密である。関心が高い「主席の食事」は秘密のベールに包まれ、一般人には知る由もない。

 しかし秘密であればあるほど興味はつのる。

 数年前「習近平主席がランチした」という噂が流れたため、連日満席になった店がある。上海にある揚州料理の店で、ネットには主席が食べたとされる詳細なメニューまで書き込まれたそうだ。ちなみに今は検索不能である。

 まれに、当局が意図的に流す「主席の美食情報」もある。

 「習大大『舌尖上的中国』」はまさにそうで、「舌尖上的中国」というのは、中国で人気のグルメ番組だ。

 まずは北京の「慶豊包子舗」。ファストフードのチェーン店だが、ここにある日突然、習主席が現れた。事前に知らされていなかったようで、客も店員もびっくり仰天である。慌てふためく店員たちを制して、主席は他の客同様列に並び、21元(約332円)のセットメニューを注文した。肉まんと青菜炒め、簡単な煮込みのセットで、その後「主席のセットメニュー」として人気になった。庶民派をアピールするのが目的だったようである。(2013年)

 主席美食情報その2は14年、釣魚台迎賓館で中国国民党の元主席・連戦氏夫妻を招いた会食だ。連戦氏が陝西省西安市にルーツを持つため、陝西名物の「羊肉泡●(羊肉スープにパンをちぎって入れたもの)」、「肉夾●(中華風ハンバーガー)」、「凉皮(冷麺)」が提供されたという。(●=漠のさんずいをしょくへんに)

 3つ目の美食情報は、河南省を視察した際に立ち寄った「★麺(河南麺)」の店である。現地の家庭料理と同じ、鍋と★麺、4種類ほどの小皿料理を数人で食したという。(★=檜のきへんをひへんに)

 国家機密に近い「主席の食事」のなかで、報道されるものにはもちろん意図がある。それを読み解くのも、海外メディアの重要な仕事である。

 コロナ禍で、中国に行けなくなってそろそろ1年になる。中国の友人たちと大好きなお店で味わった中国料理が恋しい。こんな状況下、政府発表でもいいから知りたい「主席のグルメ」である。

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