真山仁の穿った眼

日本シリーズで見えた“完成した人材”不信 (2/3ページ)

真山仁
真山仁

完成度の高い人材ばかりを採用しない

 従来の野球の常識からすれば、巨人のスタイルが王道なのだ。なのになぜ、「ありえなかった」プレーが勝ったのだろうか。

 勝因の一つには、選手層の厚さがある。フルスイングの打者と剛球投手の調子の波を調えるため、個人の修正に頼るのではなく、選手の調子をしっかりとチェックして、調子が落ちれば、調子を上げている控え選手と交代する。その結果、常に「その時に一番調子の良い選手」が試合に出て、活躍する。従来の「控えは、主力選手が怪我をした時のスペア」という発想がない。

 ソフトバンクが、日本のプロ野球球団の中で、最も資金力があるために可能だという面もあろう。

 だが、本当の理由は、別にある気がする。

 それは、選手を獲得するときの方針だ。日本の野球は、“国技”と言われるほどレベルが高い。本場、米国大リーグと対戦しても良い勝負なのは、少年野球から高校野球、大学、社会人と運動能力の高い大勢の若者が切磋琢磨し、ハイレベルの選手が誕生する土壌がある。

 そこで、多くのプロ球団は、完成度の高い即戦力を欲しがちだ。

 だが、ソフトバンクは、このところ、プロ野球の新人選手選択会議(ドラフト会議)で、高校生を優先して獲得している。それは、完成度より、伸びしろを見ているからではないか。

 そして、球が速い(威力がある)とかスイングスピードが速いとか、俊足という、「一芸に秀でた」選手を獲得し、その才能を伸ばしながら、総合的なレベルアップを図っているように見える。

 実際、日本シリーズで大活躍した選手の多くが、支配下外の育成出身者だった。まさに、一芸に秀でた金の卵である育成選手は、大成する可能性は低いと考えられている。だから、当初は1軍の試合にでる権利を与えない育成選手として獲得する。彼らには、ドラフト1位選手が手にする1億円の契約金や1000万円超の年俸なんて出されない。一般企業の初任給より安い選手すらいる。だが、鍛えて、才能が伸びれば、完成度の高い選手を上回る活躍が可能である(そして、年俸も上がる)、という方程式を、ソフトバンクは明確に実現している。

 この「完成度の高い人材ばかりを採用しない」という発想こそが、今の日本の企業や役所に欠けていると、かねがね私は考えていた。

 最近の若い社会人を見ていると「そつのない、大人を騙(だま)すのが上手な」若者が増えた気がするからだ。彼らは、迎合性が高く、承認欲求も強い。だが、ギラギラとした野生的なパワーを感じないのだ。

 私が触れる若い社会人は、皆判で押したように「明るく、そつがない」が、人間力を感じない人が増えた。また、現状肯定派がほとんどで、思い込みが強い独りよがりが多い。

 彼らは、壁にぶつかると簡単に挫折し、それを乗り越えるより、職を変えるという安易な選択をする。

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