海外情勢

香港の黎智英氏が再収監 中国寄りの判断で“司法の独立危機”浮き彫りに

 中国への批判的な報道で知られる香港紙、蘋果日報の創業者で、香港国家安全維持法(国安法)違反の罪などで起訴された黎智英(ジミー・ライ)氏(72)が31日、終審法院(最高裁に相当)の決定を受けて再び収監された。厳しい条件付きながら同氏の保釈を認めた高等法院(高裁)の決定に対し、中国共産党機関紙、人民日報などが批判キャンペーンを展開、再収監を要求していた。国安法の前に司法の独立が有名無実化しつつある現状が改めて浮き彫りになった。(藤本欣也)

 この日、最高裁で審理を担当したのは馬道立首席法官(最高裁長官)、張挙能判事ら3人。馬氏は、香港での三権分立や司法の独立の重要性をたびたび強調してきたことで知られる。

 また馬氏は定年のため1月中旬に退官予定で、張氏が次期長官を務めることになっており、2021年の香港司法の行方を占う意味でも、この日の最高裁の判断が注目されていた。

 黎氏は、海外勢力と結託して国家の安全に危害を加えたとして、国安法違反の罪などで起訴されている。12月3日に収監された黎氏は保釈を申請したが、国安法は42条で「(被告が)引き続き国家の安全を害する行為を実施することはないと信じるに足る十分な理由がなければ、裁判官は保釈を認めてはならない」と規定し、国安法事件での保釈を厳しく制限している。

 しかし香港高裁の李運騰裁判官は同23日、再犯や逃亡のリスクは低いなどとして、厳しい条件付きながら黎氏の保釈を認めた。李裁判官は別件の裁判で、「国安法42条は、保釈を認めない規定ではない」との判断を下した判事だった。

 高裁の保釈決定に対し、香港政府の司法行政当局は最高裁に不服を申し立てる上訴を申請。文匯報などの香港の中国系紙や人民日報も連日、保釈決定を非難する報道を展開し、「香港の裁判所に国安法の事件を裁く能力がないなら、黎氏を中国本土に移送して中国本土の裁判所で裁くべきだ」などと主張した。

 香港メディアによると、この日の最高裁の審理で、司法行政側は「国安法違反の最高刑は終身刑であり、一般に保釈が認められていない殺人に匹敵する極めて重い罪だ」と指摘、「国家の安全は重大な公衆の利益にかかわるもので、国安法に関する事件は一般の刑事事件より保釈の基準を厳しくすべきだ」として、不服申し立ての受理と黎氏の再収監を要求。最高裁は結局、不服申し立ての審理を2月1日に行うこととし、その間、黎氏を再勾留(こうりゅう)する決定を下した。

 最高裁が不服申し立てを却下せず受理したことで、高裁の決定が見直される可能性が高いとの見方が出ている。

 香港では、デモ参加者のマスク着用を禁じる覆面禁止法を一部違憲とした高裁判決に対し、中国や香港政府が激しく反発。最高裁が12月21日、香港政府の訴えを認めて合憲判決を下したばかりだ。

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