海外情勢

カンボジア、移民労働者帰国で感染拡大警戒 タイとの国境地域で防疫強化

 タイで新型コロナウイルスの感染者が増加しているのに伴い、カンボジアのタイ国境地域で、帰国したカンボジア人移民労働者の新規感染が相次いで確認されている。カンボジア保健省によると、1月15日までに確認されたタイからの帰国者の陽性者は56人。カンボジア政府は国境の防疫態勢を強化している。

 タイでは2020年12月半ば、バンコク近郊の中部サムットサコン県にある水産市場でクラスター感染が発生。これをきっかけに近隣県やバンコクでも感染者が続発した。それまで感染を抑制していたタイだが、今年1月3日には1日に745人の陽性者が判明する事態となり、13日までの累積感染者数は1万人を超えた。

 不安定な雇用形態

 タイには100万人以上のカンボジア人移民労働者がいるといわれる。多くが単純労働で、なかには季節的な農業労働もあり、その雇用形態は不安定だ。今回の新型コロナによる不況で多くが職を失い、カンボジアに帰国していることから、カンボジア政府は感染拡大を警戒。タイからの帰国労働者について隔離と検査を徹底し、陽性と判明すればそのまま国境州の病院に入院させ、治療を受けさせている。

 これまでのところ、タイからの帰国者が中心となった市中感染は確認されていない。だが56人という人数は、昨年11月末にカンボジアで初めて発生した市中感染による陽性者41人を上回っており、今後も増える可能性があるため、当局は違法入国者の取り締まりなど国境警備を強化している。

 新型コロナ感染拡大への懸念と同時に、移民労働者の失業や帰国は、国内経済にも影響を与えそうだ。

 世界銀行は20年、新型コロナの各家庭への影響を調べるため、カンボジアの平均的な所得の家庭と、貧困家庭から選んだ1667世帯について、仕事の状況や世帯収入などを調べた。11月に発表された結果によると、家族のだれかが外国へ働きに出ているという世帯は調査対象の約3割。そのうち1割の世帯で、労働者が既に帰国していた。帰国の理由は「工場の閉鎖」が36%で、「求人がなくなった」が24%だった。

 家族の仕送りに影響

 さらに、新型コロナは移民労働者からカンボジアの家族への仕送り額にも影響を及ぼしている。同じ調査によると、移民労働者のいる世帯のうち6割が「新型コロナの感染拡大以降、収入が減った」としており、平均で47%の収入減となったことが分かった。新型コロナ後の仕送り額は、この調査では月50ドル(約5200円)ほど。貧困世帯に限れば、平均30ドルほどだった。新型コロナ前の1世帯当たりの海外送金額は「平均で月300ドル」とする調査もあり、新型コロナの影響が深刻であることが推測される。

 クメール・タイムズ紙によると、世銀は別の調査に基づき、20年にカンボジアが外国から受け取る移民労働者からの正規送金額が14億ドルに減少すると予測している。カンボジア労働職業訓練省の統計によると19年には、約120万人のカンボジア人が、タイ、韓国、日本、シンガポール、香港、マレーシア、サウジアラビアで働き、総額28億ドルを祖国に送金したという。同省の統計と比較すると、20年の外国送金額は約半分にまで落ち込んでいる可能性がある。

 一方、こうした海外での失業者の受け皿となり得る国内の雇用状態も悪化している。

 カンボジアで確認された新型コロナ感染者は今年1月13日までで426人。大流行には至らずに抑制されている。しかし、プノンペン・ポスト紙によると、新型コロナによる世界不況からはカンボジアも逃れられず、20年に国内で閉鎖された工場は129カ所に上り、7万人以上が職を失った。そのうち8割以上を占めるのが女性だ。同紙によれば、112カ所の工場が操業開始・再開したものの、新規雇用者は2万人程度にとどまっているのが現状だ。

 カンボジアでは新型コロナにより、経済成長を支えてきた観光業が壊滅的な打撃を受け、ここ数年、成長を牽引(けんいん)してきた不動産業や建設業も大きな影響を受けている。20年の経済成長率はマイナス2%と、内戦後で初めてのマイナス成長が予測されている。21年にはプラス成長に転じるものの緩やかな回復とみられており、厳しい経済状況が続きそうだ。(カンボジア日本語誌「プノン」編集長 木村文)

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