【ビジネスアイコラム】ロシアのプーチン大統領が昨年12月8日、2021~23年の連邦予算に署名し、成立した。各年とも赤字幅は1~2%と限定的で、手堅い印象を与えるが、緊縮財政で対外債務に頼れないロシア特有の事情も垣間見える。アフターコロナも経済の低成長が予想され、社会の閉塞(へいそく)感が強まる可能性がある。(黒川信雄)
日本貿易振興機構(ジェトロ)のまとめによれば、18、19年は主力輸出商品の石油などの資源価格の持ち直しや税収増を受け、2年連続で財政収支は黒字となったものの、20年は新型コロナウイルスによる国際的な景気の落ち込みを受け資源価格が下落し、さらに経済対策のための支出増で国内総生産(GDP)比で4.4%の赤字となったもようだ。今回成立した3カ年予算でも、21年に同2.4%、22、23年はそれぞれ1%台の赤字が続く。
コロナ禍で各国の財政状況が悪化する中、赤字幅は小さく、景気回復よりも財政の悪化阻止に力を入れている様子がうかがえる。例えば日本は21年度予算案で、歳出は106兆円で過去最大を更新したほか、歳入の約40%を新規国債発行(借金)に依存している。コロナ禍であえぐ多くの国々が財政悪化を容認しつつ、国民や企業向け支援、景気回復を優先させている状況とは、違いが際立っている。
歳出をみれば、20年が22.5兆ルーブル(約37兆3500億円)になったとみられるのに対し、21年は21.5兆ルーブル、22年も21.8兆ルーブルと、早々に緊縮財政への移行へかじを切る予定で、歳出増による景気対策に力を入れる意思は見えてこない。
ロシアの財政政策について、ジェトロ海外調査部の齋藤寛課長代理は「自立した国家運営を確保するため、均衡財政を維持する目的がある」と分析する。齋藤氏は「ソ連崩壊後、経済が壊滅的な状態に陥ったロシアでは、西側からの支援受け入れの条件として国際通貨基金(IMF)などの経済政策の方針に従わざるを得なくなった」とし、「自立した政策実施が阻害される状況に陥った」事態を繰り返さないために、対外債務を警戒していると指摘する。
ソ連崩壊後、資本主義への転換を進めたロシアだが、「ショック療法」と呼ばれる急激な価格の自由化や、独占体の解体・私有化といった経済政策が進められる中、1000%に達するハイパーインフレや生産の急減に見舞われ、国民の生活は大きな混乱に陥った。ロシア政府は国際機関からの融資を受けたが、一方で経済政策はさまざまな制約を受けた。ロシアの指導層にはこの時期に、経済の低迷以上に、自国の影響力がそがれたとの認識があるといわれる。
歳出に対する歳入の不足を補う手段としてはほかにも、国営企業の株式放出や原油価格の上昇時に税収を積み上げた基金の取り崩しなどがある。
ただ、国営企業の株式売却をめぐっては、16年に国営石油企業の民営化をめぐるトラブルで当時の政権幹部が逮捕された問題を受け容易には実行できない状況になっていると指摘される。また基金をめぐっても、最近では金額が増大傾向にあるものの、ルーブル安や、実態の不明瞭な債権なども組み込まれているとされ、その有効性には疑問符がついている。
緊縮財政は経済の低成長につながることは必至だ。プーチン大統領は18年、景気対策をうたい約27兆ルーブル規模の国家事業計画を打ち出したものの、その進捗(しんちょく)は既に「不透明な状況に陥っている」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの土田陽介副主任研究員)と指摘される。ロシア政府が緊縮財政に動けば、推進は一層困難になりそうだ。
土田氏は同計画についても、基幹インフラの更新など短期的な経済波及効果が望みにくいプロジェクトが中心で、「“中長期的な成長”を実現させるためのもの、という考え方もできるが、景気を刺激するとはいいがたい」と述べ、その効果に疑問を投げかける。
膨大な資源を有し、資源価格が上昇すれば一定の成長が約束されるロシアだが、深刻な汚職問題なども、その潜在力をそぐ要因となっている。
コロナ後も景気低迷が続けば国民の不満がさらに強まるのは必至で、経済政策の見直しを余儀なくされる可能性もある。