昨年の中国経済は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて著しい景気減速に直面した。しかし、その後は強力な感染封じ込め策により収束が図られるとともに、経済活動の正常化が進められた。さらに、財政および金融政策を総動員する形で景気の底入れが図られてきた。多くの主要国は感染の再拡大が直撃するなど、依然としてその悪影響に見舞われるなかで中国経済は克服したと捉えることができる。その一方で、いち早い景気回復の背後で新たなリスクが表面化しつつある可能性も出ている。(第一生命経済研究所・西浜徹)
コロナの影響克服
2020年の中国経済をめぐっては、19年末に湖北省武漢市で確認された新型コロナ感染拡大の動きが全土に広がり、1~3月には四半期ベースの実質国内総生産(GDP)成長率が初のマイナス成長となるなど、深刻な景気減速に見舞われた。しかし、その後は都市封鎖などの強力な感染対策がとられた結果、4月には当初の感染拡大の中心地となった武漢の封鎖措置も解除されるなど、経済活動の正常化に大きく舵が切られた。さらに、5月末に開催された全国人民代表大会(全人代)では、財政および金融政策を総動員する形で景気下支えを図る方針が採択された。
その後の中国経済は公共投資の進捗(しんちょく)のほか、経済活動の正常化を受けた生産拡大を背景に底入れの動きを強めており、世界経済の回復期待を受けた外需の底入れの動きも景気を押し上げている。結果、20年の経済成長率は多くの主要国でマイナス成長となったとみられるなか、中国はプラス成長を維持したとみられるうえ、実質GDPの水準も既に新型コロナの悪影響が及ぶ前の19年末を上回るなど、中国経済はその影響を克服したと捉えることができる。足元では、欧米など主要国で感染が再拡大して行動制限が再強化されるなど、景気の下振れが懸念される動きがみられるなか、中国経済は「独り勝ち」とも言える状況にある。
ばらつき強まる兆候
なお、回復の遅れが懸念された家計消費も経済活動の正常化を受けた「ペントアップ・ディマンド(繰り越し需要)」の発現も相まって底入れが確認されるなど、回復感を強めている。さらに、景気回復の進展に加え、中央銀行による金融緩和を背景とする「カネ余り」が続くなかで株式をはじめとする資産価格も堅調に推移しており、資産効果も消費マインドの改善を促しているとみられる。ただし、雇用の回復の弱さは家計部門の財布のひもを固くしているとみられ、近年の電子商取引(EC)サイトによる価格競争の激化も相まってディスインフレ圧力がくすぶる。このように、家計消費の動きは全体として底入れの動きをみせているものの、跛行(はこう)色(ばらつき)が強まる兆候もうかがえる。
なお、20年末に開催された今年の経済政策の運営方針を討議する中央経済工作会議では、財政および金融政策については基本的にスタンスを維持する一方、景気回復とリスク抑制とのバランスをとるべく、「正常化」に向けた取り組みを進める姿勢が示された。この背景には、金融市場がカネ余りの様相を強めるなか、景気回復が進んでいることも追い風に大都市部においては不動産市況の上昇によるバブル化が懸念されることが影響している。一方、地方都市においては依然として需要が弱含む展開が続いており、この点でも跛行色が強まっている様子がうかがえる。こうした事態を受けて、大都市部では規制の強化を通じて市況の沈静化を図る取り組みが進められており、一部の都市では効果を挙げる兆候もうかがえる。
今後も当局は不動産市場に対する規制強化を通じて市況の安定を図る取り組みを進めるとみられる一方、家計消費の回復に跛行色がくすぶるなかでは金融政策の正常化など思い切った方向転換に動くことは難しい状況にある。しばらくは窓口規制や資金の流れに関する監視強化などを通じた「対症療法」に頼らざるを得ない展開が続くと見込まれ、当局にとっては難しい対応が迫られる局面が続くと予想される。
【プロフィル】西浜徹 にしはま・とおる 一橋大経卒。2001年国際協力銀行入行。08年第一生命経済研究所入社、15年から経済調査部主席エコノミスト。新興国や資源国のマクロ経済・政治情勢分析を担当。43歳。福岡県出身。(西浜氏の「浜」はさんずいにウかんむりに眉の目が貝)