2020年10~12月期の中国の実質国内総生産(GDP)成長率は前年同期比でプラス6.5%と、7~9月期の同プラス4.9%から成長が加速、景気回復が進んでいることを印象付けた。20年通年の実質GDP成長率は前年比プラス2.3%と、大国で唯一となるプラス成長を維持した。世界全体ではGDPがコロナ前の水準に回復するのが21年後半と見込まれるなか、中国は世界に先駆けて既に20年4~6月期に達成するなど、新型コロナ感染拡大を抑制した中国の景気回復ぶりが他の先進国と比べて顕著となっている。
一方、中国経済の負の側面として無視できない統計もある。中国の金融情報サービス会社Windによると、中国の国有企業および民間企業が発行した社債のうち、20年に債務不履行(デフォルト)となった銘柄件数は150件、金額は1697億元(約2兆7171億円)に上り、19年の1495億元を上回り過去最高額となった。特に昨年11月以降、中国において半導体国産化の担い手として期待されていた紫光集団が立て続けに債務不履行に陥るなど、国有大手のデフォルトが目立っている。
“コロナ猶予”で延命
中国はここ10年あまり、経済成長とともに債務の過剰な積み上がりという問題を抱えてきた。世界金融危機後の「4兆元対策」が過剰生産、過剰債務をもたらしたほか、その後も暗黙の政府保証を見込んで金融機関が国有企業への融資を膨らませたことなどが背景にある。国際決済銀行(BIS)によると、中国の家計、企業、政府の総債務は世界金融危機後に右肩上がりで増加し、20年4~6月期にはGDP比で280.3%に達した。新型コロナ感染拡大を受け、過剰債務を抱える企業のうち一部は資金繰り不安に直面したが、中国政府による新型コロナ対策の元利払い猶予措置などによって延命した。しかし、中国経済が正常化に向かうなかで公的支援が徐々に縮小、資金調達環境が厳しくなっている影響が顕在化しつつある。また、米中対立を受けて、中国民間企業にとって海外市場からのドル資金の調達環境も悪化している。
地方政府傘下の投資会社「融資平台」の債務増大も懸念される。Windによると融資平台の20年の債券発行額は4兆949億元と19年の3兆5007億元を上回り過去最高額となった。地方政府の財源不足の穴埋めとして活用される融資平台は、土地収益などを担保に銀行融資や債券発行で資金調達がなされているものの実態が不透明なものが多い。企業の社債デフォルトの頻発により、融資平台に対しても暗黙の政府保証への懐疑的な見方が強まることで、デフォルトが連鎖的に波及する事態となれば、信用収縮のリスクが高まる。
実体経済に影響2点
公的支援によるゾンビ企業の延命措置を続ければ潜在的な不良債権が積み上がり、いずれは中国政府の処理コストの増大を招くおそれがある。一方、急激な公的支援打ち止めや金融政策転換により企業の倒産や社債デフォルトが広がれば信用収縮を招くことにつながる。このように中国当局は難しいかじ取りに迫られているが、21年は中国共産党創立100周年の節目の年でもあり、急激な政策転換による中国経済のハードランディング・シナリオは回避されるとみる。しかし、過剰債務がもたらす実体経済への影響は以下の2点で顕在化しよう。
まず、過剰債務の存在は設備投資を抑制する方向に働く点だ。バブル崩壊後の日本でみられたように、過剰債務企業は債務返済を優先させ、新規投資を手控える傾向にある。現在、債務が過去前例のない水準まで積み上がった中国では今後、投資拡大ペースが鈍化する可能性が高い。
次に、過剰債務企業の存続により、経済全体の生産性が低下するおそれがある点だ。世界金融危機後、債務の過剰な積み上がりと並行して、過剰投資の影響などから投資効率の低下がみられている。1%の経済成長率引き上げのために必要な追加的な資本ストックを示す「限界資本係数」を試算すると、同係数はここ10年で一貫して上昇しており、世界金融危機前に比べて2倍以上となっている。過剰債務を抱えるゾンビ企業が市場から退出せず、経済全体で労働力や資本などの生産要素の非効率な配分が放置されれば、投資効率の低下に拍車がかかることになろう。
過剰債務問題が、好調な中国経済の死角となるのか。信用収縮への警戒とともに、実体経済への影響について注視していく必要がありそうだ。
【プロフィル】橋本択摩
はしもと・たくま 東大経卒。第一生命経済研究所、三井物産戦略研究所などを経て、2020年2月に三菱総合研究所入社。政策・経済センター主任研究員。アジア新興国の経済分析を担当。44歳。埼玉県出身。