【ロンドン=板東和正】世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスによる肺炎を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と宣言してから1月30日で1年となった。医療機関の検査態勢整備などを促す緊急事態宣言が昨年1月30日まで先送りされたことが、世界で累計1億人以上の感染者を出すパンデミック(世界的大流行)につながったとの批判は根強い。WHOの改革は喫緊の課題となっている。
「米国はWHOの強化と重要な改革の推進のため、(他の加盟国と)建設的に協力する」。バイデン米大統領の首席医療顧問を務めるファウチ国立アレルギー感染症研究所長は1月21日にこう述べ、WHO改革への意欲を示した。バイデン米大統領が20日に就任し、トランプ前政権が決めたWHO脱退を撤回した翌日である。
新型コロナをめぐるWHOの動きに問題があったと考えている点は、バイデン政権も、WHO脱退を決めた前政権も変わらない。
WHOの新型コロナ対応を検証する独立委員会は1月18日、中間報告を公表した。独立委はこの中で、WHOが緊急事態宣言を検討する緊急委員会を昨年1月22、23日に招集し、約1週間後の30日に再び緊急委を開催して宣言を出した経緯を疑問視。「緊急委が22日まで招集されなかったことや、緊急委が(同日に)宣言の実施に合意できなかった理由が明らかになっていない」と指摘した。
米メディアによれば、WHOが宣言を見送った23日時点で新型コロナはすでに韓国やタイ、米国などに広がっていた。宣言が出された30日には世界の累計感染者数が22日時点に比べ14倍以上となっていた。
WHOの対応が遅れたのは、感染症が発生した際に、調査要員や支援要員を現地へ自由に派遣する権限が不足しているためだ。
新型コロナが中国で確認された初期の昨年1月当時、WHOは中国の感染状況を把握しようとしたが、WHOの調査に強制権がないことから中国政府の協力に頼らざるを得なかった。AP通信によると、WHOは当時、中国からの情報提供の遅れや情報不足に不満を抱いていたという。宣言について早期に判断するための情報が足りていなかった可能性がある。
こうしたことを踏まえ、独立委は、WHOの権限拡大や資金拡充に向けた改革が必要だとみている。
米外交をつかさどるブリンケン国務長官も「WHOは改革を必要としている不完全な組織だ」との立場を明確にしており、WHO最大の拠出国である米国の意欲は「改革への追い風になる」(専門家)と期待されている。
ただ、改革がWHO加盟国の賛同を得られるかには不透明な面もある。シンガポール国立大国際法センターのバーマン上級研究員は自身の論文で、緊急事態宣言は感染症が発生した国に多大な経済的影響を与えると指摘。加盟国はこれまでWHOが強い権限を持つことに消極的だったと述べている。