【シンガポール=森浩】ミャンマーで国軍によるクーデターが起きてから8日で1週間となった。実権を握った国軍は新体制構築を進める一方、アウン・サン・スー・チー国家顧問率いる国民民主連盟(NLD)への締め付けを強化。スー・チー氏の軟禁は長期化の兆しも見える。中国からの支援を見越し、強気の姿勢でクーデターによる体制の既成事実化を進めているが、警戒しているのがインターネットを通じた国民の反発だ。
「政権担当能力」主張
国軍は1日のクーデターで、NLD関係者を一斉に拘束した後、新閣僚を相次いで任命。選挙管理委員会や中央銀行トップも交代させるなど、意のままになる体制構築を急いでいる。
「(スー・チー政権での)経済政策は維持する。既に始まっているインフラ整備事業も継続する」。クーデターから2日後の3日、新軍事政権の最高意思決定機関となった「行政評議会」は地元経済団体代表らとの会合を開いた。席上、国軍トップのミン・アウン・フライン総司令官はこう述べ、行政の継続性を強調した。
参加した団体の幹部は産経新聞通信員の取材に「急激な変化はないことを強調し、政権担当力があるとアピールしているように感じた」と話した。
一方で、国軍はクーデター後、NLD政治家や反国軍的な活動家を約150人拘束したとされ、この数は増えていく可能性が高い。スー・チー氏の側近も拘束された。国軍は1年間の非常事態を宣言し、自らの管理下での「公正な選挙」を実施すると発表した。非常事態宣言は延長も可能で、時間をかけてNLDに打撃を与えてから、選挙を実施したい思惑がある。
スー・チー氏については「無線機の無許可所持」という微罪で訴追しており、取り調べ名目での長期間の勾留も可能だ。スー・チー氏の軟禁を続け、発信力をそいでいく構えだ。
広がる市民の反発
国軍には民主化の後退を理由に米国が制裁に踏み切っても、関係が深い中国は見捨てないという計算が働く。中国は国軍への鋭い批判は控えており、「(国軍)政権と協力する準備ができている」(米外交誌ディプロマット)との観測が定着しつつある。
国軍が最も警戒しているのが会員制交流サイト(SNS)を通じた批判拡大だ。6、7日には最大都市ヤンゴンなどで大規模な抗議デモが実施され、国軍は全土でのネット接続遮断という異例の強硬策に出た。
1960年代から約半世紀に及んだ軍政下で民主化運動が弾圧され続けた経験から、国民の間では大規模抗議を躊躇(ちゅうちょ)する意識があるという。「だが、SNSを通じた意見発信は定着しており、(ネット)切断は国軍への不満を高めることになるだろう」と分析するのは地元ジャーナリスト、チット・ミン・マウン氏だ。
NLDは国民に対してクーデターへの抵抗を呼びかけている。抗議デモは拡大の兆しを見せており、国軍の対応次第では、反発が大きなうねりとなる可能性がある。