中国を読む

価格転嫁動向 リスク要因に浮上

 第一生命経済研究所・西●徹

 2020年の中国の経済成長率は、2.3%増と44年ぶりの低成長にとどまった。しかし、中国経済は新型コロナウイルスの感染抑制を受けた経済活動の正常化に加え、世界経済の回復を背景とする外需拡大を追い風に底入れが進んでいる。多くの主要国がマイナス成長を余儀なくされたなかでプラス成長を維持しており、中国経済は異例の状況にあると捉えられる。他方、年明け以降は感染が再拡大して一部で行動制限が再強化される動きも出ており、春節(旧正月)やその後の景気にも少なからず悪影響を与える懸念はくすぶる。

 20年の中国経済は、一昨年末に湖北省武漢市で発見された新型コロナウイルスの国内外での感染拡大による影響が直撃して景気に大幅な下押し圧力が掛かった。その後は感染収束を受けて経済活動の正常化が進むとともに、財政および金融政策を総動員して景気下支えを図る動きが進んだ。さらに、欧米など主要国でも感染拡大一服により経済活動が再開され、世界経済の回復が進んだことは中国景気の押し上げにつながった。結果、昨年の経済成長率は2.3%増と44年ぶりの低水準にとどまったが、多くの主要国がマイナス成長を余儀なくされたなかで異例の底堅さを維持した。

 外需と投資に依存

 中国の景気回復をめぐっては、世界経済の回復に伴う外需拡大に加え、インフラ関連を中心とする固定資本投資の押し上げが寄与するなど、外需と投資に依存する傾向が強まった。家計消費の回復は遅れる展開が続いたものの、足元では小売売上高の前年同月比の伸び率もプラスとなるなど、底入れが進んでいる。

 今年1月の自動車販売台数は前年同月比で3割近い伸びとなるなど一段と底入れが進んでおり、家計消費の堅調さがうかがえる。もっとも、自動車販売が好調に推移する背景には、補助金や減税などを通じた政策支援の動きに加え、海外旅行に行けないなかで富裕層を中心に高額消費が押し上げられたことが影響している。

 金融市場においては全世界的な「カネ余り」が続くなか、中国景気の回復期待を追い風に株価は堅調な推移が続く。余剰資金の一部は大都市部を中心とする不動産市場に流入する動きも続いて市況は押し上げられており、資産保有者の財布のひもが緩みやすいことも、家計消費が活発化する一因になっている。

 一方、高額消費に活発な動きがみられるにもかかわらず、1月のインフレ率は再びマイナスとなった。春節の時期のずれを考慮する必要はあるが、1月は食料品やエネルギーを除いたコアインフレ率もデータが入手可能な13年以降で初めてマイナスとなるなど、ディスインフレ基調が強まっている。なお、年明け以降は一部の地域で感染が再拡大する動きが出ており、部分的に行動制限を再強化する事態に迫られる動きもみられる。

 格差問題の影響懸念

 政府も1年のうち最も人の移動が活発化する春節連休中の帰省自粛を呼び掛けており、期間中の人の移動は例年を大きく下回ることが避けられなくなっている。行動制限は低所得者層などに対する経済的な圧力につながりやすく、高額消費が活発化する背後では社会経済格差が拡大するリスクをはらんでいる。足元でディスインフレ圧力が強まる背景には、格差問題が影響している可能性もある。

 中国景気の回復を背景に世界的には原油をはじめとする商品市況が底入れしており、中国国内でも生産者段階での調達価格も上昇圧力を強めている。ただし、消費者段階ではディスインフレ圧力がくすぶるなど、家計部門の財布のひもの固さを受けて、企業はコスト上昇分を商品価格に転嫁できない状況が続いており、出荷価格は横ばいで推移している。

 仮に今後も原油をはじめとする国際商品市況が一段と底入れの動きを強めれば、価格転嫁が難しいなかで企業収益の圧迫要因となる可能性も高まる。株価は中国景気の回復を織り込む形で好調な推移をみせてきたが、価格転嫁の動向は株価の行方にも影響を与えるほか、高額消費の動向をも左右する新たなリスク要因ともなり得る。

【プロフィル】西●徹

 にしはま・とおる 一橋大経卒。2001年国際協力銀行入行。08年第一生命経済研究所入社、15年から経済調査部主席エコノミスト。新興国や資源国のマクロ経済・政治情勢分析を担当。43歳。福岡県出身。

●=さんずいにウかんむりに眉の目が貝

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