改正会社法が1日に一部施行され、一定規模以上の企業に社外取締役を置くことが義務付けられた。外部の目を入れることで経営の透明性が高まるなどの効果があるとされ、海外の機関投資家からは社外取締役の比率をさらに高めるよう要望が強まっている。一方、重要な役割が求められる社外取締役にふさわしい人材は限られているのが実情で、今後は「量」だけでなく「質」の確保も課題となってくる。
独立した立場
「女優というだけでなく、国際NGOの親善大使を務めるなど公的な活動もしており、経営に助言をいただけたら」
洋菓子販売の不二家の担当者は、今月24日付で社外取締役となる俳優の酒井美紀さんの選任理由をこう説明する。
マスコットキャラクター「ペコちゃん」で知られ、全国約950店を展開する不二家。顧客には子供連れの主婦らも多く、同社は「酒井さんは主婦でもあり、意見は経営の参考になる」と期待を寄せる。
社外取締役は会社法で、企業の取締役のうち社内業務を執行せず、その企業や関連企業、経営陣などに対し、一定以上の利害関係を持たない取締役と規定される。取締役会に出席し、経営方針に助言したり意思決定に参加したりするほか、独立した立場で株主や利害関係者の意見を経営に反映させる役割を担う。
また、第三者的な立場から、企業に大きな不祥事が起きた場合、設置される第三者委員会における委員の選任プロセスにかかわるケースなどもある。
求められる役割が重要かつ多岐にわたるため、社外取締役には経営や法律の知見を有する人物が選ばれることが多いようだ。経済産業省の調査によると、社外取締役は46.0%が経営経験者、11.8%が弁護士、11.1%が公認会計士や税理士から選ばれている。
海外投資家の存在
今回の法改正では、上場会社などで社外取締役の設置が義務化されるほか、現行法で難しかった社内業務の執行を限定的に認める内容などが盛り込まれた。
注目されるのは設置義務化だが、実は現行法でも社外取締役を置かない場合は定時株主総会で理由を説明しなければならず、東京証券取引所第1部に上場する企業の95%以上が2人以上の社外取締役を選任する。大和総研の鈴木裕主任研究員は「選任する企業が法改正で大きく増えるわけではない」と指摘する。
では義務化に踏み切るのはなぜか。背景には、日本の資本市場において海外投資家の存在感が高まっているという事情がある。
2020年の東証1部の売買代金で海外投資家の占める比率は全体の7割超。海外投資家は不適切な経営に対する抑止力として、取締役の3分の1以上を社外取締役とすることを近年求めており、満たされなければ取締役選任に反対するケースまで出ている。
潮流に合わせる形で、金融庁と東証が今春改訂する予定の上場企業の行動指針を定めたコーポレートガバナンス・コード(企業統治原則)では、東証1、2部で現行「2人以上」とする独立性の高い社外取締役の基準について、特に東証1部を引き継ぐ新市場では「3分の1以上」を求める案が議論されている。
鈴木氏は「法律の条文で社外取締役の設置義務を明文化することで、日本の上場企業が社外取締役に監督され、資本市場が海外投資家の目線に合わせているというメッセージを内外に発信する効果を見込んでいる」と分析する。
今回の法改正が機能するには、社外取締役の「質」の担保も重要となる。
限られた人材
経産省の調査によると、65%の社外取締役は、社長や最高経営責任者(CEO)が選任に関わったとみられ、社外取締役の独立性に疑問符がつくケースも少なくない。独立性がなくなれば「時には経営者に耳の痛い意見も言う」という役回りは果たしづらい。
一方、社外取締役の比率を海外投資家の求める水準まで高めようとすると、人材不足という課題が浮上する。3割以上の社外取締役は、現在または過去に他社でも社外取締役を務めた経験があり、限られた人材に職務が集中する構図だ。
大和総研の鈴木氏は「経営の経験があっても、その企業のことを理解する人、となると意外に候補者が少ないということになる」と指摘。また、「最近は性別や人種などのダイバーシティーという観点も重視されるが、そちらを優先することを投資家が望むかという問題も出てくる」と難しさを強調する。 (佐久間修志)