中国の立法機関、全国人民代表大会(全人代)が開幕した5日、同常務委員会の王晨(おう・しん)副委員長は、香港の選挙制度を見直す必要性を改めて指摘した。中国共産党は民意排除の香港統治を一段と強化する構えで、“中国化”に歯止めがかからない香港の国際評価にも影響が出ている。(藤本欣也)
王氏はこの日、全人代で香港の選挙制度を見直すための議案を説明。「愛国者による香港統治」の実現に向け、行政長官や立法会(議会)議員の選出方法を定めた香港基本法(ミニ憲法)の付属文書を修正する必要性を強調した。
報道によると、(1)行政長官を選ぶ選挙委員会の定員を1200人から1500人に増やす一方、区議会(地方議会)議員の枠(117人)を廃止(2)立法会の定数を70から90に増やす一方、少なくとも5議席の区議枠を廃止(3)選挙の候補者が「愛国者」か否かを審査するメカニズムの導入-などが主な修正内容という。
間接選挙で選ばれる行政長官や、約半数が間接選挙で選ばれる立法会議員と異なり、区議会議員は直接選挙で選ばれ、民意が反映されやすい。一般に香港では有権者の6割が民主派支持、4割が親政府・親中派支持とされるが、今回の制度見直しの狙いは、民主派に有利な区議会議員の枠を撤廃することにある。
さらに選挙委員会には、立法会選の候補者を指名する権限も与えられるという。こうした指名や審査を通じ、民主派を排除することも可能だ。香港大法学部の陳文敏教授は香港メディアに対し、「(新制度で)議席が増えても、市民は民意を代表する選挙とは考えないだろう」と指摘した。
また新制度では、区議枠が廃止される立法会に、選挙委員会の枠が設けられるとも報じられている。しかし来年の行政長官選に向けて選挙委のメンバーが決まるのは今年12月で、9月の立法会選に間に合わない。もともと昨年9月に行われる予定だった立法会選は新型コロナウイルスの感染拡大を理由に1年延期されていたが、香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは5日、「再延期されるのはほぼ確実」と報じた。
一方、米シンクタンク「ヘリテージ財団」は4日、経済自由度の2021年版ランキングを発表、昨年2位の香港を評価対象から外した。「香港の政策は今や中国政府の統制下にある」などが理由だった。香港は19年まで25年連続トップで、昨年、シンガポールに首位を譲り渡していた。