疾風勁草

「期限付独裁」は民主主義か? 民主主義は脆く、そして非効率なもの (2/2ページ)

高井康行
高井康行

 「正義」を唱えて近寄る独裁・全体主義

 一方、日本には、民主主義は期限付独裁だと言い放った政治家がいる。菅直人元首相だ。菅直人氏は副総理や財務大臣などを兼任していた2010年3月、参院内閣委員会で「ちょっと言葉が過ぎると気をつけなきゃいけませんが」との留保を付けてではあるが、「議会制民主主義というのは期限を切ったあるレベルの独裁を認めることだ。4年間なら4年間は一応任せると」と答弁している。

 合意の成立を目指して努力した結果、やむを得ず多数決で政治を動かすのと、最初から、4年間は独裁が許されると割り切って政治を動かすのとは、本質的に異なる。その答弁には、権力者特有の独裁への秘めた希求を感じざるを得ない。「期限付独裁」から「期限付」を外すことが、それほど難しくないことは、過去及び現在の独裁国家の例が示している。

 民主主義は脆いもの、そして、非効率なものだ。効率の良さや手際の良さ、分かりやすさを求めすぎてはいけない。独裁主義、全体主義は、時には、声高に正義を唱え微笑みながら寄ってくる。

 民主主義は、幼子を育てるように寛容の精神をもって、注意深く、用心深く、そして、辛抱強く、護り育てていく以外にない。

高井康行(たかい・やすゆき)
高井康行(たかい・やすゆき) 弁護士、元東京地検特捜部検事
1947年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、1972年に検事任官。福岡地検刑事部長、東京地検刑事部副部長、横浜地検特別刑事部長などを歴任した。岐阜地検時代には岐阜県庁汚職事件を、東京地検特捜部時代はリクルート事件などを捜査。福岡地検刑事部長時代、被害者通知制度を始める。1997年に退官し、弁護士登録。政府の有識者会議「裁判員制度・刑事検討会」委員を務めたほか、内閣府「支援のための連携に関する検討会」の構成員や日本弁護士連合会の犯罪被害者支援委員会委員長などを務めた。テレビや新聞でも識者として数多くの見解を寄せている。

【疾風勁草】刑事司法の第一人者として知られる元東京地検特捜部検事で弁護士の高井康行さんが世相を斬るコラムです。「疾風勁草」には、疾風のような厳しい苦難にあって初めて、丈夫な草が見分けられるという意味があります。アーカイブはこちらをご覧ください。

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