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五輪の切り札は「バブル」…体験したヴィッセル神戸では意外な効果も

 新型コロナウイルス感染の収束が見通せない中、東京五輪・パラリンピックの開催に懐疑的な見方が広がっている。どのようにすれば、安心・安全な大会となるのか。成否の鍵を握るとされているのが、選手や大会関係者と外部との接触を遮断したクリーンなエリア「バブル」だ。テニスの全米オープンや米プロバスケットボールNBAで導入され、効果があったとされる隔離生活はどんなものなのか。昨年11~12月にカタールで集中開催されたサッカーのアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で体験したヴィッセル神戸のスタッフに話を聞いた。(北川信行)

 ホテル従業員も隔離

 ACL初出場のヴィッセル神戸の一行が離日したのは11月20日。翌日からドーハ市内のホテルに宿泊しながら12月13日までの23日間で6試合を戦い、日本勢で唯一4強入りを果たした。

 「出発前にPCR検査を受け、飛行機の中ではマスクに加えてフェースシールドもしていました。ドーハの空港に着いたら、再びPCR検査。専用のバスで宿舎のホテルに移動しましたが、陰性が判明するまで全員、部屋から出られませんでした」。広報部の芹田晋平さんはそう振り返る。

 練習と試合のとき以外は外出を許されず、ホテルに缶詰め状態。ドーハの都市部に位置するホテルのため、敷地内に散歩やジョギングができる場所はなく、建物内で過ごすことを余儀なくされた。日本から参加したFC東京、横浜F・マリノスも同じホテルだったが、食事場所はそれぞれ別の階に設けられ、施設内のジムは一定の消毒時間をあけて利用するように定められていたという。

 「驚いたのは、ホテルの従業員にもバブルの措置が取られていたこと。大会期間中、彼らも自宅に帰れませんでした。われわれと同じようにPCR検査も受けていました」と芹田さん。確かに隔離地域の清浄な状態を保つには、可能なかぎりバブル内外の人の往来を遮断する必要がある。

 苦労した気分転換

 大会に参加するチームの選手やスタッフは試合ごとにPCR検査を受けることが義務付けられており、陰性の証明がないと試合会場のスタジアムに入れない仕組みだった。日々の練習会場への行き来は専用のバス。ホテル到着時には消毒が徹底され、道中は常に警察車両が先導していた。

 米フロリダ州のテーマパーク内に設けられたバブルで集中開催されたNBAの場合は、娯楽施設を活用するなどしてリフレッシュすることができた。しかし、今回は都市部のホテル。ジムやプールぐらいしか余暇を楽しめる設備はなく、芹田さんは「どうやって気分転換を図るかが難しかったですね」と述懐する。

 ヴィッセル神戸では大会期間中に一度、アジア・サッカー連盟(AFC)のリエゾン(連絡係)に頼み込んでドーハの観光名所を巡るバスツアーを催行した。「選手、スタッフあわせて10人ちょっとが参加しました。でも、バスからはまったく降りられない。運転手が熱心で、約2時間半かけていろいろと回ってくれたのですが、ただ名所の前を通過するだけでした。もちろん、バスの中ではみんなマスク姿です」と芹田さん。その他の時間、多くの選手は部屋の中でゲームをしたり、本を読んだり…。欧州との時差があまりないことから、ずっと海外サッカーのテレビ中継を見ている選手も多かったという。

 生まれた一体感

 試合は無観客で、試合前日や試合後にはスタジアムで記者会見が開かれた。しかし、バブルの外から大会に参加することになる報道陣は厳しい規制の対象だった。現地メディアを中心に、数人しか会見に出席しておらず、互いにソーシャルディスタンス(社会的距離)を取ることも、徹底されていた。

 バブルの生活に耐えながら4強入りしたヴィッセル神戸は、12月13日の準決勝で蔚山(ウルサン)現代(ヒョンデ)FC(韓国)に敗れ、大会を去った。帰国時には特例措置の「アスリート用東京オリパラ準備トラック(通称アスリートトラック)」が適用されていたため、2週間の待機期間中の強化活動(練習や大会参加など)が可能だった。

 芹田さんは、バブルの意外な“効果”について、こんな話を教えてくれた。

 「ヴィッセル神戸を担当してくれたホテルの従業員は、ずっと同じ人たちだったんです。われわれが決勝トーナメント進出を果たしたときには、自分のことのように喜んでくれました。いわば、一緒に生活した仲間のような感覚です。バブルならではの、一体感が醸成されたんです」

 東京五輪・パラリンピックでどのようなバブルが構築されるかは、まだ明らかになっていない。だが、不自由な生活の中だからこそ、より親密な交流が生まれる可能性もある。

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