高論卓説

東芝と物言う株主の対立 経営に増す緊張感、一層の対話必須

 東芝の車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)が窮地に立たされている。18日の臨時株主総会で村上ファンド系のアクティビスト(物言う株主)のエフィッシモ・キャピタル・マネージメントの議案が賛成多数で可決したためだ。

 エフィッシモは昨年7月の定時総会の議決権行使の集計について、集計作業を行った三井住友信託銀行が一部の議決権行使書を慣例に沿って無効にしたことについて、再調査するよう求めていた。また、大株主に対してある人物が議決権を行使しないよう圧力をかけたとも指摘しており、この調査も求めていた。

 これに対して、東芝は議決権行使の経緯・結果については、自社の監査委員会などが既に調査しており、さらなる調査は必要ないとして議案に反対していた。

 臨時総会でエフィッシモの提案が支持されたことで、エフィッシモが推薦する弁護士3人による調査が実施されることになる。東芝は18日付で本件に関する「調査者ホットライン」を設置した。議決権行使の集計作業を行った三井住友信託では、「臨時総会の結果を受けて社内はハチの巣をひっくり返すような大騒ぎになった」(幹部)という。

 エフィッシモの主張が賛成多数となった背景には米議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホールダー・サービシーズ(ISS)によるアクティビストへの支持が大きかった。「ISSの支持を契機に慎重な運用を行う年金基金など株主の6~8%がエフィッシモの議案賛成に動いたようだ」(投資ファンド幹部)とみられている。

 今後の焦点は3人の弁護士による調査の結果に移るが、最大の注目点は、大株主への圧力の有無とその圧力をかけたとされるある人物の特定に注がれる。エフィッシモの指摘では「主だった株主数十社に質問を行ったところ、実際に、圧力により議決権行使を行うことを断念した株主が存在していることが確認された」とされており、その人物が特定されることになる。

 その人物は、外資系ファンド関係者によると、「既に一部報道されているが、元経済産業省参与で、米テスラ社外取締役の水野弘道氏のようだ。水野氏は東芝の大株主であった米ハーバード大学基金の知己に連絡したとされている。ただ、これが圧力に当たるのかどうかは今後の調査の結果次第。場合によっては経産省へも問題が飛び火しかねない」と語る。

 弁護士3人による調査結果を受けて、6、7月にも開催される東芝の定時総会で、車谷氏の再任議案が通るかは予断を許さない。東芝の外国人株主比率は6割を超えており、昨年7月の定時総会でも車谷氏の再任議案は57%の賛成比率にとどまっていた。

 銀行や生命保険など従来の安定株主が、国際的な自己資本規制もあり政策投資株の売却に動く一方、世界的な金融緩和を背景に投資ファンドの存在感は高まっている。とりわけアクティビストの動きはその派手さもあり市場の耳目を集める。企業の経営者や戦略をモニタリングし、経営に緊張感を与える存在として有効との指摘も聞かれる。

 いずれにしても企業経営者は最大のステークホールダー(利害関係者)である株主を意識し、コミュニケーションに努めることが一層求められる。

【プロフィル】森岡英樹

 もりおか・ひでき ジャーナリスト。早大卒。経済紙記者、米国のコンサルタント会社アドバイザー、埼玉県芸術文化振興財団常務理事を経て2004年に独立。福岡県出身。

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