国内

次世代リーダーに必須の条件 日本型リベラルアーツ再構築を

 【論風】国軍による自国民殺害へのミャンマー人の抗議集会にネット上で批判が起き、「日本人に迷惑をかけるな」などの書き込みが相次ぎ、その後留学生の訴えで反応は好意的なものに変わったようだが、「いいね」を押す以上の積極的な支援の動きにはなっていない。(世界のための日本のこころセンター代表・土居征夫)

 日本人は変わってしまったのだろうか。明治維新後、アジアの近代化を支援したのは、政府ではなくむしろ民の声だった。清からの朝鮮の独立や孫文の中国革命を支援し、世界での奴隷解放や人種差別撤廃を主張した気概をもつ国民だった。今日日本の産業界が必死に追求するSDGs(持続可能な開発目標)には自由と民主と法治の保障が含まれる。公益と道徳的価値を重視する渋沢栄一の伝統を継ぎ、戦後の復興期まで見られた民の気概のある活動は、世代がかわりミーイズムへと変質してしまったのだろうか。

 聖徳太子以来の歴史を紡いできた人にやさしい日本の和の政治や社会思想は、現代日本の複雑で極端な縦割りのムラ社会構造の中では、所属組織ばかりに目線が行き公のこころを喪失する結果を招来し、コロナ対策や教育改革などの大きな障害になっているとはいえないか。所得増大と立身出世をゴールにあくせく働く企業内価値観は多様性の欠如した閉じた職場環境につながり、女性活躍の面で国際的に後れをとるばかりでなく、産業の潜在成長力を低めて日本自身の首を締めつつある。

 人材難の戦後世代

 知人のヘッドハンターは、最近トップ経営者が後継に外国人を据えるケースが続発しているのを見て「企業の幹部人材を活用しようと、ヘッドハントのため、日本全国の河川や湖沼に釣り糸を垂れているが、もはや社長候補に推薦できる人材はどこにもいなくなった」と、日本の社会がリーダーを育てられなくなったことを慨嘆している。

 地球環境の破壊、格差と社会の分断、民族紛争など世界は文明崩壊のリスクを高めつつあり、今後の人類は人工知能(AI)を使いつつ人間のあり方を極める「統合智」を発揮し危機を克服する必要がある。そのため世界ではリベラルアーツ教育の拡充に向かいつつあり、日本はこのような潮流に大きく出遅れている。デジタル×AIのための理系教育ではなく、リベラルアーツ教育の充実こそ急務だ。

 ただ日本の次世代リーダーに求められるのは、世界や社会への新しい価値創造だ。ギリシャ哲学に由来する欧米流のリベラルアーツでは、人類社会に日本ならではの新しい価値を創造する貢献はできない。いかに世界中の知識を吸収し論理力を磨いても、こころの基盤に自らの歴史を経て形成された精神文化の土台を持たない状態では、世界や社会に貢献する力は生じない。

 民と地方からの変革を

 明治からの近代化に向けた画一的学校教育、進学教育の以前に、日本の長い歴史の中で蓄積されてきた真の人間力養成の教育システムを再評価し、「日本型リベラルアーツ」教育として、再興築していく必要がある。

 リベラルアーツは知識や論理(認知能力)にとどまらず、感性、直観、身体智(非認知能力)を重視するものであるが、日本型リベラルアーツはさらに(1)欧米型のように高等教育に限定せず全ての学問のベースとして、幼児・初等中等教育段階から学ぶべきもの、(2)リーダーを役割と考え、エリートだけでなく全ての人が学ぶべきもの、そしてなにより、(3)日本のこころの文化の源流に立ち、世界に価値をもたらすもの-でなければならないと考える。

 コロナ後の日本沈没を避けるため公教育の変革は不可欠だが、それを促すためにも、オンライン学習普及で盛んになりつつある、ネットや家庭、アフタースクールをも巻き込んだ寺子屋形式の全人教育を行う民独自の活動が私学、私塾などにも反映され、全国に爆発的に波及していくことを期待する。

【プロフィル】土居征夫 どい・ゆきお 東大法卒。1965年通商産業省(現経済産業省)入省。生活産業局長を経て94年に退官。商工中金理事、NEC常務を経て、2004年以降、企業活力研究所理事長、学校法人城西大学特任教授などを歴任。19年2月から現職。日本信号顧問。武蔵野大学客員教授。東京都出身。

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