海外情勢

タイ、ミャンマー避難民受け入れ増 苦渋のキャンプ開設で課題山積

 国軍が抗議デモへの弾圧を強めるミャンマーで、暴力と財産の接収を逃れるため故郷を捨て隣国タイを目指す人々が増えている。タイ側はやむなく国境沿いの山間部に臨時の避難民キャンプを開設する方針を固めたが、困難が待ち受ける。立ちはだかるのは、ミャンマーで一向に収束しない新型コロナウイルスへの脅威、そしてタイ国内でも続く反政府デモへの波及だ。

 最大で数千人収容

 バンコクから北北西に約500キロ。ミャンマー東部カイン州ミヤワディーは、モエイ川に架かる第2タイ・ミャンマー友好橋でタイ側のターク県メーソートと隣接する。ここに最大都市ヤンゴンなどから逃れてきたミャンマー市民らが姿を見せ始めたのは、国軍の弾圧による死者が累計200人を超えた3月半ば以降。自宅から持ち出した金目の家財道具や銀行のATM(現金自動預払機)でかろうじて引き出せたわずかな現金を手に、命からがら避難してきた人たちだった。

 そのままミャンマーの自宅にとどまれば、国軍兵士らに拘引(こういん)され命を落とす恐れがあった。一番近い国境の街を目指したのは、ミャンマー軍の力が及ばない安全な土地に一刻も早く逃れたかったから。ここ数週間で、ヤンゴンを中心としたミャンマー国内の治安は国軍の暴力によって一気に悪化。食料品なども手に入りにくくなっている。

 ヤンゴン北郊のラインタヤ郡区。反政府デモに参加する公務員らが多く居住するこの地区に、国軍の軍用車両約50台と大量の兵士らが突如姿を見せたのは、同14日正午過ぎのことだった。兵士らは何の前触れもなく発砲を始め、現地からのSNS(会員制交流サイト)によると、瞬く間に数十人が死亡。連行されたまま行方の分からない人が数百人にも上ったという。

 銃撃後に国軍は同地区に戒厳令を布告。部隊を駐留させ、夜間は轟音(ごうおん)を伴った閃光(せんこう)弾を撃ち上げるなどして反抗する住民らのあぶり出しを続けている。銃口の先に少しでも動きがあると、兵士らは躊躇(ちゅうちょ)せずに引き金を引く。街は戦場さながらの状態に陥っている。

 故郷を脱出してタイ国境に姿を見せた人々をタイ政府は、そのまま追い返したのでは国際社会からの非難を免れないため、基本的に「難民」として受け入れる方針だ。ターク県のほか、いずれもミャンマーと国境を接する南部ラノーン県やチュムポーン県などにキャンプのための用地を既に用意。間もなく仮設住宅や診療所などの建設が始まる見通しだ。政府関係者によると、最大で数千人の収容を見込んでいる。

 迫るコロナ拡大脅威

 だが、一方で悩みも尽きない。ミャンマー国内の新型コロナ患者は累計14万人を超え、収束間近のタイと異なり、いまなお感染拡大が続いているとみられている。ミャンマーでは医療機関の混乱でPCR検査なども滞り、クラスターの発生など実態がどうなっているのかさえ不明な状態だ。

 このため、タイ政府は人道的な見地からキャンプへの越境は受け入れるものの、キャンプ地以外への移動やタイ在住のミャンマー人らとの接触は一切認めない方針だ。同時に、新型コロナ検査で陽性と判断された人については、キャンプ内に設置する施設で強制的な隔離を行い、外部にウイルスを侵入させない措置を講じることにしている。

 もう一つ、タイ政府には強い懸念材料がある。昨年8月以降、バンコクなど自国内で展開されている反政府デモへの影響だ。ミャンマーの反政府デモと同様、政府当局に退陣を求め、三本指を立てて行進するのは大学生や20~30代の若者たち。彼らはSNSを通じて、国境を越えて連帯を呼びかけている。キャンプ内にこうした動きが持ち込まれ、タイの反政府デモ隊が勢いづくことを政府は極度に恐れている。

 こうしたことから、キャンプ内の様子や実情については可能な限り秘匿とする方針だ。国境警備隊や警察部隊を24時間体制で駐留させ、検問なども実施することにしている。

 国内では世界に先駆けていち早く新型コロナの制御に成功し、産業の再開に向けた動きを活発化させるタイ政府。4月からは入国者への強制隔離期間も10日に短縮し、10月の入国制限全面解除に向け主力の観光業のてこ入れも始める計画だ。だが、その一方で辺境の西部や南部の国境では、隣国ミャンマーで起こった軍事クーデターの余波に苦しんでいる。解決の糸口は見えない。(在バンコクジャーナリスト・小堀晋一)

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