中国を読む

半導体が米中対立の主戦場に 三菱総合研究所・橋本択摩

 中国をめぐる外部環境が大きく動いている。バイデン米新政権は3月3日、暫定版の安全保障戦略指針を発表、「中国は経済、外交、軍事、技術力を組み合わせ、開かれた世界システムに挑戦する能力を秘めた唯一の競争相手だ」と認定した。同18日には、米中外相会談が米アラスカ州で開催され、中国によるウイグル族の扱いや香港、台湾問題などについて、冒頭から厳しい応酬が展開された。

 また、バイデン大統領は2月下旬に、半導体や医薬品、レアアース(希土類)、蓄電池の重点4品目のサプライチェーン(供給網)の100日以内の見直しを指示する大統領令に署名した。バイデン政権下、米中の選択的デカップリング(分断)の対象領域が浮かび上がりつつある中、3月16日に東京で開催された日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)では、半導体やレアアースなどのサプライチェーンの構築で日米が緊密に協力することも確認したもようだ。

 経済への影響不可避

 中国における半導体関連品の地域別輸入動向をみると、日米および台湾からの輸入シェアは、半導体ウエハーなどの材料品や半導体製造装置でおよそ5割、測定・検査用機器も4割を占めている。ハイテク・サプライチェーンが中国経済の弱点となっていることが分かる。

 2020年9月、トランプ前政権下で中国通信機器大手華為技術(ファーウェイ)に対する輸出規制強化が発動され、世界的に半導体不足をもたらした。パソコン、スマートフォン向けのほか自動車など多くの産業が今でも幅広く影響を受けている。中国自動車工業協会はこうした半導体不足の影響から、21年1~3月の国内自動車生産量が5~10%縮小するとの見通しを示している。

 中国は「第14次5カ年計画」で、イノベーション駆動型発展を実現するため、官民合わせた研究開発費を年7%以上増やすことを明記した。特に基礎研究を重視し、21年の基礎研究費を前年比10.6%増加させるとともに、「基礎研究10カ年行動計画」を策定・実施することも盛り込んだ。今後、次世代人工知能(AI)、量子情報、半導体、脳科学、遺伝子、臨床医学、宇宙の7分野に重点的に予算が配分される。半導体分野でも中国経済の弱点となっている材料や製造装置などの技術開発は長期的にみて進むとみられる。

 ただし、短期的には米国主導の選択的デカップリングの中国経済への影響は不可避となろう。対象領域がハイテク・サプライチェーンの分野から、人権、個人情報、金融など、どこまで拡大するかにも注意が必要だ。

 供給源多角化支援を

 続いて、米国が重点分野と定める半導体や医薬品、レアアース、蓄電池を取り巻く日本の現状についてもみてみよう。図表はこれら4分野に関する10品目をHSコードより抽出し、10年と20年現在のわが国の中国への輸入依存度を示したものである。「ダイオード、トランジスタなどの半導体デバイス等」が55.7%、「希土類金属等の無機または有機の化合物」が54.6%、「蓄電池」が54.4%と、これら3品目で中国への輸入依存度が過半を占めている。

 レアアースに関しては、10年の尖閣諸島沖での漁船衝突事件を契機に、中国が対日輸出制限を実施。その後、日本の産業界は調達先の多角化、代替技術の開発による使用量の減少などに懸命に取り組んだ経緯がある。その結果、図表の通り、レアアースの輸入依存度はここ10年で大きく低下した。それでも中国依存から完全に脱却するのは難しい。今後は米国や欧州連合(EU)などが脱中国依存に向けた動きを加速すると見込まれることから、中国以外の地域での調達競争が激しさを増し、価格高騰の懸念が強まろう。なお、米国における「希土類金属等」の中国への輸入依存度は20年、74.4%に達している。

 20年12月、中国は安全保障に関わる製品などの輸出規制を強化する「輸出管理法」を施行、わが国では経済安全保障の観点から中国に依存するサプライチェーンの見直しに向けた対策が求められる。日本の世界からの輸入1207品目(HSコード4桁)のうち332品目において、中国への輸入依存度が50%以上となっている。これらのうち経済安全保障上、重要と考えられる品目を抽出し、供給源の多角化を図るべく対象を絞った形で補助金支給といった政策支援を行うことは検討に値しよう。

【プロフィル】橋本択摩

 はしもと・たくま 東大経卒。第一生命経済研究所、三井物産戦略研究所などを経て、2020年2月に三菱総合研究所入社。政策・経済センター主任研究員。アジア新興国の経済分析を担当。44歳。埼玉県出身。

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