田中秀臣の超経済学

コロナ増税「亡国論」緊縮主義との決別を提言した理由 (2/2ページ)

田中秀臣
田中秀臣

 コロナ禍では財政支援に全力を

 だが、財務省的な増税論者たちはそうは考えない。「むしろ経済が回復すれば国債金利は上昇していく。金利は急騰する可能性もあり、それを未然に防ぐためにもいま増税が必要である」というのが彼らの主張だろう。このような増税論者たちの発想は、すでに国際的な経済政策論ではトンデモの域だと言っていい。もちろん、景気回復前に増税をしてしまえば、先ほどの「財政危機」を回避する方程式が成り立たなくなる。

 それだけではない。国際通貨基金(IMF)などのエコノミストの論調を見ても、新型コロナ危機の対処では財政的支援を全力でやるべきという考えが優勢で、日本のように財政再建を優先していない。その理由の一つとして、これから長期間にわたり、経済が回復してからも国債金利が低位の水準で安定すると考えられていることがある。新興国や日本などの貯蓄過剰が、国際的な資本移動の自由化によって主要国の国債金利を低位に保っているという現象、「グローバル貯蓄過剰」だ(参照「ベン・バーナンキ」田中秀臣著、講談社)。グローバル貯蓄過剰は長期停滞の文脈で議論されることが多い。新興国や主要経済圏が、十分な国内投資の機会を見いだすことができない(構造改革の必要性)、あるいは高齢化による将来のための貯蓄、またはマクロ的な経済政策で失敗している可能性があるからだ。

 今日では新型コロナ危機によって将来不安が加速して、どの国も予備的貯蓄が積み重なっている。この過剰貯蓄という氷河を解凍することは、各国の事情により必要とされるだろう。だが、それには長い時間がかかる。少なくとも新型コロナ危機が問題になっているこの数年で貯蓄過剰問題が解消するとはとても思えない。各国の構造問題の解消とほぼ同義だからだ。

 仮に日本経済が新型コロナ危機を乗り越えて、景気が回復し、さらにインフレ目標2%を達成できたとしよう。その時には経済が安定しているので財政危機の心配はない。これで議論は終わりだ。それでも増税論者たちのように国債金利が「急騰」する可能性をいう「緊縮病」の人たちはいるだろう。今までの議論で分かるように、国債金利が少し上昇すれば、それを利益の機会として、グローバル貯蓄過剰を背景に、海外からの投資が殺到する。日本の国債金利は低位に押しとどめられるだろう(「アベノミクスが変えた日本経済」野口旭著、ちくま新書)。もちろん日本の場合は、現在の日本銀行の金融緩和姿勢が採用されているため、経済が回復するまで国債金利は低位安定するだろう。

 むしろ問題は、経済回復の途上で、実際に増税して経済を後退させるリスクである。先日、経世済民政策研究会の顧問として長島昭久、細野豪志両議員と共に、西村康稔経済再生担当相に政策提言を提出した。その中には、まず菅義偉政権は在任中に「コロナ増税」をすべきではない、という主張を中核にいれた。その趣旨は緊縮主義という「危険な思想」との決別である(参考「緊縮財政を封じ、ポリシーミックスによる成長を」浅田統一郎、週刊金融財政事情)。

田中秀臣(たなか・ひでとみ)
田中秀臣(たなか・ひでとみ) 上武大ビジネス情報学部教授、経済学者
昭和36年生まれ。早稲田大大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学。専門は日本経済思想史、日本経済論。主な著書に『経済論戦の読み方』(講談社現代新書)、『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)など。近著に『脱GHQ史観の経済学』(PHP新書)。

【田中秀臣の超経済学】は経済学者・田中秀臣氏が経済の話題を面白く、分かりやすく伝える連載です。アーカイブはこちら

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus