海外情勢

タイ・プーケット、観光復興に高い壁 苦渋の外国人隔離免除

 巨額の観光収入をたたき出す世界屈指のリゾート都市、タイ・プーケットの観光業が壊滅的な状態に陥っている。新型コロナウイルスの世界的な蔓延(まんえん)により、外国人旅行客が訪れることができないからだ。国際線の乗り入れは1年以上も前にストップしたまま。首都バンコクを経由し、14日間の検疫隔離(現在は10日間)を終えた人がちらほらいるものの、それもいっときの視界に入るのは数人から数十人程度。街はゴーストタウンと化し、多くの人が失業した。青息吐息どころか、呼吸も困難な瀕死(ひんし)の状況が続いている。

 「街は死んだ」

 4月上旬のプーケット県パトンビーチ。快晴で澄み渡った砂浜に人影はほとんどない。地元の人に話を聞くと「この1年はずっとこの調子。おかげで海がずいぶんときれいになったよ」と皮肉交じりのコメントが返ってきた。訪れる観光客がいなくなったタイ最大の観光地では、飲食店や娯楽施設などが相次いで閉鎖となり、夜間は水を打ったように静まりかえる。「街は死んだ」という声を何度も耳にした。

 ビーチ沿いの通りでは昼間もほとんど人通りはない。開いているのは、わずかなコンビニエンスストアとマッサージ店だけ。閉めているよりはましとの判断からだそうだ。人がいないからレストランは軒並み閉店している。食事を取れる店が一向に見つからない。4月はタイの盛夏。大つぶの汗を流して見つけたその日の昼食は、バイク屋台で売っていた薄くて固い牛肉のハンバーガーだった。

 観光都市プーケットの収入の柱は、9割を占める外国人旅行客が落としていく金だ。コロナ前の2019年は世界各地から計1450万人が訪れ、約4700億バーツ(約1兆6300億円)もの収入があった。この金額はタイの国家予算約3兆2000億バーツの15%にも相当する。ところが昨年は、堅調だった3月半ばまでを加えても2000億バーツにも届かなかった。このままの状態が続いた場合、今年の観光収入は1000億バーツを割り込むとの試算もある。

 こうした危機的な状況を受け、地元県やタイ国政府観光庁などが打ち出したのが、ワクチン摂取を済ませた外国人旅行者を対象に検疫隔離を免除して入国させる実証実験「プーケット観光サンドボックス」だった。コロナ蔓延後に、強制的な隔離を免除して外国人を受け入れた事例はタイではこれまでほとんどない。実現できれば経済的な効果は上がるだろうが、世界各地で感染が残る中、これまでにないハイリスクな政策だ。

 各国の対応は不透明

 実施にあたっては、住民の集団免疫獲得を条件としていることからも、背に腹は代えられないという切羽詰まった思いがうかがえる。県の保健当局によると、集団免疫の獲得には住民の70%がワクチン接種を済ますことが条件となり、その数は人口約46万人の同県で約32万人。接種にかかる費用は全額を県が負担するとしても、接種を好まない人もいるだろうから7割というのは決して低くないハードルだ。

 加えて大きく立ちはだかるのが、仮に集団免疫が獲得できたとしても、各国政府が自国の旅行客の出国を認めるかどうかといった問題だ。国によっては海外で流行する変異株の侵入を極度に警戒する動きもある。不特定多数の人々が密になって触れ合う可能性の高い海外旅行を制限する動きがあったとしても何らおかしいことではない。

 プーケット県では、既に英アストラゼネカ製と中国科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製のワクチンの搬入が始まり、4月に入ってからは住民に対する第1回目の接種もスタートした。第2回目の接種は5月半ばの予定だ。ただ、許認可権を持つ政府の感染症対策センターが「プーケット観光サンドボックス」を正式に認可したわけでもなく、実現は集団免疫の動向と世界の感染状況いかんにかかっている。不確定要素を残したまま手探りの状態が続いている。(在バンコクジャーナリスト・小堀晋一)

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