高論卓説

北朝鮮の東京五輪不参加 決定打は日本の制裁継続メッセージ

 北朝鮮は東京五輪に不参加を表明した。不参加を発表した最初の国であったためか、各メディアの扱いは大きかった。2012年から北朝鮮の朝鮮体育大学とスポーツ交流を行っている日本体育大学にも取材があった。もし参加するとしたなら、東京五輪・パラリンピック組織委員会からホストタウンの役割を委託されていただけに、日体大としては残念だった。(松浪健四郎)

 国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が18年3月に平壌を訪問し、金正恩総書記と会談した。席上、金総書記は東京五輪参加を約束した。外交上、大きなニュースであり、日本政府へのメッセージであると解する必要があったにもかかわらず、このメッセージに対してのアクションはゼロであった。

 バッハ会長が訪朝後の同年11月に東京でIOCの会議があり、北朝鮮はIOC委員を兼務する金日国・体育大臣を派遣してきた。金大臣は東京五輪の事前合宿を日体大で行うため視察を希望されたが、日本政府は会議出席以外の行動を認めなかった。ビザ発給の条件が、そうなっていたからだという。私は平壌でその1カ月前に会談をした金大臣とホテルで再会したが、とても残念がっていた。

 この報告を受けた北朝鮮政府は、当然ながら日本政府の姿勢に反発。日本政府は、北朝鮮に対して、歓迎しておりませんというメッセージを送ったことに気づいていない。東京五輪の招致に中国や韓国が反対したにもかかわらず、北朝鮮は賛成したことを忘れていたようだ。

 前政権も現政権も「無条件で北朝鮮政府と話し合う用意がある」と表明しているが、北朝鮮には通じていない。五輪不参加の理由として、北朝鮮は新型コロナウイルスの感染を挙げた。ウイルスを脅威に捉えているのは事実であろうし、医療保健システムに自信がないのかもしれない。また、外貨不足も影響しているかもしれない。不参加を表明したのは、日本政府が北朝鮮への制裁を継続すると決定した6日の閣議の2日後であった。このメッセージが決定打になった。

 北朝鮮は閉鎖的な国でありながら、柔道、レスリング、重量挙げ、サッカーなどの強豪国で、五輪でも多くのメダルを獲得してきた。国民を勇気づけ、誇りをもたせるツールである最高の舞台を放棄したのは、日本に対して相当な反感をもっている一つの証左であろう。

 日本政府は、許されない北朝鮮のミサイルや核開発に関しては当然ながら国連と行動をともにする。しかし、日本は他国と異なり、隣国であること、多数の在日朝鮮人が住む国であること、歴史的に人や文化の交流があったこと、かつて植民地にした国であったこと、国交を持たない国であることなどを考慮すれば、独自の政策を思考せねばならない。加えて、最大の関心事である拉致問題も横たわる。日本政府は、今も強烈な経済制裁を継続し渡航自粛策をとっている。

 だからこそ、感染症を横に置いても五輪を開催して、外交的にも活用したかったのが日本政府の本音だろう。18年の平昌冬季五輪では、不参加を決めていた北朝鮮は、突然、参加を決定した。先頃の加藤勝信官房長官の記者会見の内容は、まだ諦めていないとも受けとめられ、何かを模索しているかの印象を与えた。

 政府の反対を押し切って、建学の精神にのっとって4度も平壌を訪問してスポーツ交流を実施してきた日体大としては、「平和」の構築には、対立を超越した独自の外交戦略が求められると考える。日本政府の北朝鮮へのメッセージには、金正恩総書記の心を揺さぶるものがなかったと思われようか。

【プロフィル】松浪健四郎 まつなみ・けんしろう 日体大理事長。日体大を経て東ミシガン大留学。日大院博士課程単位取得。学生時代はレスリング選手として全日本学生、全米選手権などのタイトルを獲得。アフガニスタン国立カブール大講師。専大教授から衆院議員3期。外務政務官、文部科学副大臣を歴任。2011年から現職。韓国龍仁大名誉博士。博士。大阪府出身。

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