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中国「カーボンニュートラル」に10年の猶予 焦点は長期技術

 習近平国家主席が2020年9月の国連総会で60年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言し、国際的な賛同を得た。先進諸国が50年をターゲットにしているのに対し、石炭火力発電への依存で経済成長をもう一段加速したい中国は前向きな姿勢を示しつつ、「10年の猶予」を勝ち取った。(日本総合研究所・瀧口信一郎)

 小型分散化が必須

 カーボンニュートラルに関し、太陽光発電、風力発電、蓄電池、電気自動車(EV)といった市場化が進む再生可能エネルギー関連技術で中国は世界をリードする。中国は、かつての日本のように他国が開発した「少し先の技術」に狙いを定め、中国特有の巨大市場を背景に政府の政策誘導で企業に大量の資金を投入させ、他国に追い付き追い越す成長モデルを採る。太陽光発電の技術革新でシリコン系太陽光発電が中心の中国の優位が続くかを懸念する声もあるが、成長を遂げ潤沢な研究開発予算を持つ中国太陽光発電メーカーは優位性を維持するだろう。

 問題は再生可能エネの限界を補完するCCS(二酸化炭素=CO2回収・貯蔵技術)、水素、次世代原子力、核融合といった50年以降の長期の技術である。カーボンニュートラルの潮流で開発を早める力が働いているため、「10年の猶予」のうちに、中国が市場で出遅れる可能性もある。

 もちろん、中国の長期の技術力自体は強化されている。今年2月には国家能源集団国華錦界発電所で排出されるCO2を回収し地下貯留する大型CCS施設が完成した。また、世界で唯一、原子力発電所建設を拡大する国であり、核融合分野でも20年12月には「中国還流器2号M」の稼働に成功している。

 ただし、実用化には技術だけでなく、企業が定常的にビジネスできるようにする「市場化」が必要で、市場化の鍵は小型分散化にある。小型化すれば生産量が増えるため、経験が蓄積され生産コストが下がる。分散化すればさまざまな地域への普及展開が見込める。生産コスト低減と普及展開は、企業の事業化の意思決定の重要な要素である。

 米との勝負を左右

 1980年代に世界を席巻した日本の経済力が米国に巻き返されたのは、コンピューターの小型分散化が一因と捉えられる。米国は、マイクロソフト、アップルが小型パソコンの新たな市場を目指し、世界を変えた。小型化で市場ができれば技術開発も加速する。

 したがって、長期の技術がどう小型化されるかが一つのポイントになる。米国では、ランザ・テックがCO2とバクテリアからエタノールを製造する地下貯留型とは一線を画するCCS技術を開発し、ゼロアビアはゼロカーボン化が遅れている航空機分野で水素燃料電池航空機を開発する。

 また、オレゴン大学からスピンアウトしたニュースケールは小型原子力発電の稼働を開始し、コモンウェルス・フュージョン・システムズは、小型核融合技術を開発。ビル・ゲイツ氏が主導するファンド「ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ」は10億ドル(約1080億円)の民間資金を、市場化につながる長期の技術を保有する企業に投資している。

 米国は多様性と自由を尊ぶ文化に依拠するベンチャー精神という強みを持つ。中国にも同様のベンチャー精神があるが、政府が強い権限を持つ中で、政府の方針で市場が作られてきた面は否定できない。

 中国と米国の勝負は長期の技術が一つの焦点になる。残念なのは日本の存在感がないことである。長期投資の国の資金、巨大IT企業創業者が主導する民間ファンドが不足している。日本のエネルギー関連技術は大学や大企業に偏っている。大学や大企業で埋もれる技術を取り出してカーブアウト(切り離し)する日本型のベンチャー手法や社会的意義のある長期投資を支えるインパクト投資などのファイナンスで長期の技術に適した枠組みを作らないと、日本の存在感はますます希薄になる。

【プロフィル】瀧口信一郎 たきぐち・しんいちろう 京都大学理学部を経て、1993年同大大学院人間環境学研究科修了。テキサス大学MBA(エネルギーファイナンス専攻)。Jリート運用会社、エネルギーファンドなどを経て、2009年日本総合研究所入社。創発戦略センターシニアスペシャリスト。専門はエネルギー政策、エネルギー事業戦略、分散型エネルギーシステム。著書に『中国が席巻する世界エネルギー市場 リスクとチャンス』『ソーラー・デジタル・グリッド』(ともに日刊工業新聞社・共著)、『エナジー・トリプル・トランスフォーメーション』(エネルギーフォーラム・共著)など。1969年生まれ。

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