海外情勢

トルコ、米国との対立下で地域大国エジプトと改善模索

 【カイロ=佐藤貴生】トルコのエルドアン政権は5月初め、政府代表団をエジプトに派遣して関係改善に乗り出す。イスラム教の価値観を色濃く政治に反映させるエルドアン大統領は、世俗の統治を重んじるエジプトのシーシー大統領とは対極にあり、2013年に互いに相手国の駐在大使を国外退去させて以来、関係が悪化していた。欧米との関係が冷え込むトルコは、中東の地域大国との関係を修復して外交的孤立を和らげる狙いとみられる。

 両者の対立は11年、「アラブの春」の反政府デモを機にエジプトで影響力を強めたイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」への対応の違いが発端だ。

 シーシー氏は国防相だった13年、同胞団出身のモルシー大統領(当時)を拘束する強硬手段で政権を崩壊させ、翌14年の大統領就任後も同胞団の弾圧を続けて壊滅状態に追い込んだ。一方のエルドアン政権は摘発を逃れてトルコに来た同胞団幹部を保護してきた。

 しかし、中東メディアによると、エルドアン政権は今年3月中旬、トルコ国内の同胞団系の放送局にシーシー政権の批判を控えるよう指示。エジプト政府高官が「対話に向けた雰囲気の醸成」に役立つと歓迎し、対話再開に道筋が整った。

 エルドアン政権の政策転換の理由として、エジプトなどが1月、ペルシャ湾岸の小国カタールとの約3年半に及んだ国交断絶に終止符を打ったことが挙げられる。カタールが同胞団幹部を受け入れてトルコと関係を深めたことが断交の一因だが、国交再開で合意したことでトルコが孤立するとの指摘も出ていた。

 トルコとエジプトはいずれも中東屈指の人口を抱える地域の大国。地下資源に乏しいトルコは昨年、東地中海のギリシャなどとの係争海域で資源探査を強行し、欧州との関係が悪化した。沿岸で巨大ガス田が発見されたエジプトに近づきエネルギーの安定調達を目指す狙いもうかがえる。

 ロイター通信は26日、トルコのカリン大統領報道官が、在トルコのサウジアラビア総領事館で起きた反体制サウジ人記者殺害事件以降、関係が冷却化する石油大国サウジとの間も修復する考えを示したと伝えた。サウジも同胞団を危険な思想集団とみなし、トルコと敵対している。

 トルコが模索するアラブの2大国との和解が実現するかは未知数だ。同胞団の動向に詳しいエジプトの政治評論家、ムニール・アディブ氏は「トルコの政策転換を受け、同国の同胞団メンバーがエジプトへの送還を恐れて英国に脱出しているようだ」と分析したが、トルコがもくろむ関係改善は「政治レベルにとどまり、同胞団への処遇などイデオロギー上の対立は続く」との見方を示した。

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