マサチューセッツ工科大学客員教授・庄子幹雄
「DX」とは何?。今や「デジタル・トランスフォーメーション」なる言葉を知らずしては過ごせないIT技術万能の時代、令和3年。まもなくその推進役を担ってわが国ではデジタル庁が発足しようとしている。狙いはデジタル技術の全面的な活用により、国民一人一人の生活が快適なものになる、がうたい文句のはずである。
確かに実現の暁には各人が受け取り、必要とする情報及びその量は瞬時に過不足なく同一レベルで万人に伝達され、誰一人として世の中から取り残されるという事態は発生しない。健全な生活を送る上で必要とされる時間(手間)のかかる諸手続きの煩雑さももちろんのこと解消される。研究開発に日夜没頭する者たちの環境も整備され、次々と新技術が誕生する等々、ほとんどの分野で良いことずくめ、働く者の最大の関心事、いわゆる働き方改革までもが達成される。
しかし、本当にそのような世の中が今の日本で実現するのだろうか。残念ながら筆者はデジタル庁の本来の趣旨実現までには相当の年月を覚悟すべきと、やや悲観的である。
2つの私案
なぜならば、まずは先行してのIT技術を駆使できる人材養成と必要最小限のIT基盤構築が完備していなければならぬ。既存の世の中の旧態依然たるシステムを全て変えなければならぬ。目前のコロナ禍の中での生活を見るに、国民は基本的には在宅ステイ、老いも若きもある者はパソコンに向かっての勉学、勤務を強いられ、わずかにテレビ会議での交流はあるものの、人間性豊かな、腹蔵ない意見交換はなされ得ない。子供たちの満足度、学生の満足度、勤労者(社会人)の広い意味での従業員満足度はこんなテレワークで得られないのは当然である。
従ってコロナが長期間にわたって収束しない事態も想定してのデジタル庁でなければならぬ。おくればせながらデジタル庁の早期の成功の鍵として2つの私案を述べさせていただきたい。
まず1つはデジタル庁の基幹職員は各省庁からの寄せ集めではなく、半数以上を一般公募による人材とすることである。彼らは持てるIT技術を縦横に駆使して、役所・民間の制度・旧弊にとらわれることなく前述の課題解決に向けてひた走るであろう。
2つ目は古い話で申し訳ないが、1985年に開催された「国際科学技術博覧会(科学万博)」に筆者が通い詰めた事由である。2000万人以上の来場者は科学技術と人間との将来のかかわり合いについて深く洞察する展示、レクチャーと、全ての講演者(日本学術会議会員にあらず)から「21世紀後半には先端科学技術の恩恵の下で生活できるようになり、人間生活は劇的に変化する」と伺ったのである。いずれのレクチャーにも早期の前倒しが期待できる、との国の政策をはるかに先んずる内容が盛り込まれ、胸躍る思いがしたのである。それ故に万博テーマ“人間・居住・環境と科学技術”に誰もが納得し共感したのである。
幅広い意見公募を
どうでしょうか。世界に冠たるIT技術者を多数擁するわが日本が、在野からも総力を挙げて協力してもらうための職員の選抜一般公募、そして科学万博ほどの規模は必要としないが、ほとんどが一般公募による職員で構成されたデジタル庁にも役割を果たす上で、国民にどのように協力してもらいたい、場合によっては最小限これだけの素養は身につけてもらいたい等の要望もありやと思われる。そのため博覧会もどきのデジタル庁説明会を一定期間開催し、これらに対する国民の意見を事前に聴取してみては?
国民の誰もがDXの世界から取り残されず恩恵を受け、全国民もデジタル庁の狙いにかなう役割を果たしていくことこそが、同庁の設立趣旨に合致すると信じて疑わない。
讓我們一起加油●!(全国民が一致協力体制を!)
【プロフィル】庄子幹雄
しょうじ・みきお 1961年鹿島入社、副社長などを歴任し2005年退任。元日本計算工学会会長。NPO法人「環境立国」理事長。東大、名工大、慶応大、法政大で客員教授、講師を務める。1996年から米ユタ大学名誉教授。2006年から現職。オリックス顧問。京都大学工学博士。宮城県出身。
●=口へんに把のつくり