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東京では4割未加入…自転車保険加入率が頭打ち 一部自治体では条例制定も罰則なく

 自転車利用者が人身事故などを起こした場合に負担しなければならない損害賠償金を補償する自転車保険の加入が伸び悩んでいる。高額な賠償金支払いを命じる判決が出たことで加入義務化の流れが加速し、条例で加入を義務付ける自治体も出始めているが、加入率は6~7割にとどまる。自転車は運転するのに年齢制限がなく免許も不要なため罰則を設けづらいという事情もあり、関係機関はさらなる普及に知恵を絞っている。

 東京では6割

 自転車保険は、自転車に正面衝突されて寝たきり状態になった歩行者に対し、加害者へ約9500万円の支払いを命じた平成25年の神戸地裁判決をきっかけに「加入を義務化すべき」との声が高まった。

 27年に兵庫県が加入を義務付ける条例を施行したのを皮切りに現在、20を超える都府県で同様の条例が施行。スマートフォンの急速な普及に伴いインターネットから簡単に申し込みができるようになり、損害保険会社や共済も相次いで商品を提供し始めた。安いものだと月数百円から加入でき、加害者と被害者双方を救済する「切り札」として、一気に加入が進んだ。

 ただ、au損害保険の調査では、令和2年時点で全国で最も自転車保険の加入率が高い京都府でも73・1%。条例施行のトップバッターの兵庫県も約70%となっている。同県が行ったアンケートでは、条例改正直後は飛躍的に加入率が増加したが、平成30年が67・9% 令和元年が68・5% 2年が68・8%と、頭打ちの状態が続く。

 令和元年に保険加入が義務化された東京都でも、加入率は2年時点で62・7%。前年と比較し12・1ポイント上昇しているが、未加入が4割にのぼる計算だ。

 年齢不問、免許不要

 普及が進まない主な理由として、保険未加入者に罰則がないことが挙げられる。現在、兵庫県をはじめ、保険加入を義務づける条例を制定した都府県のうち、未加入者に科料などの罰則を設けているのはゼロだ。

 時々、自転車を利用するという東京都内の大学に通う20代男性は「自転車保険の加入が義務化されたことは把握しているが、保険に入っていなくても罰を受けることはないので困らない」と打ち明ける。

 自転車は、乗り方さえ覚えれば幼児から高齢者まで気軽に利用できるのが特徴で、運転免許も必要ない。条例に保険未加入者への罰則を盛り込むことで、こうしたメリットが阻害されかねないとの声は根強い。

 また、自転車保険は自動車保険のように、車両1台に対して1つの契約が締結されるものではなく、自動車保険や火災保険の特約で加入したり、傷害保険と一緒に加入したりするケースなど、商品内容が多岐にわたっている。

 損保関係者は「利用者自身が保険に加入していることを把握していないケースもあり、仮に罰則を設けて自治体が取り締まりをすれば、誤って過料を科すようなトラブルも起こりかねない。自動車のように保険内容を記載した書類を常時携行させるのも自転車では難しい」と話す。

 地道な努力不可欠

 警察庁の統計によると、令和2年に発生した自転車対歩行者の事故で出た死者・重症者は306人。保険に加入していなければ被害者自身が治療費などを加害者へ請求しなくてはならないが、ケースによっては高額になる可能性もあり、そうなれば、示談交渉には高い専門性が必要となる。

 兵庫県の担当者は「今後もパンフレットの配布や安全運転講習会での啓発など、普及活動を積み重ねていくしか方法はない」。国土交通省の担当は「自転車を販売する際に保険加入有無を漏れなく確認し、非加入なら加入を促すことが重要」と指摘する。

 罰則の導入が難しい以上、保険加入率を上げるには地道な努力が欠かせない。国交省は近く、自転車活用推進計画を見直し、販売店への協力体制を策定する見通しだ。

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