新型コロナウイルスの影響でイベント開催の制約が続く中、密を避けて車に乗ったままライブ演奏を楽しむ「ドライブインコンサート」が栃木県内で人気を呼んでいる。車内で飲食ができ、拍手の代わりにハザードランプを使うなど、新しいライブ演奏の楽しみ方を提供しているからだ。“仕掛け人”は、コロナ禍において国内初めての常設会場をつくった栃木県護国神社(宇都宮市)だ。(鈴木正行)
微弱FM電波を活用
欧米では知られているドライブインコンサート。アーティストの演奏などを微弱のFM電波で送り、車内のカーステレオで楽しむ。微弱電波で小エリアに絞るため、放送免許の必要がないのがメリットだ。音質もFMならではの高品質で、観客は音楽が十分楽しめる。
この方式を手掛けるのは、音響や映像を手掛ける日本オービス(宇都宮市)の代表取締役、横山康男さん(67)。横山さんは、日本映画「子猫物語」(昭和61年公開)の公開前の試写会をドライブインシアター方式で実施するなど、技術面に詳しかった。
「この技術を生かし、演奏会を開けない演奏家の力になりたい」(横山さん)と、3密(密閉、密集、密接)対策をとったうえで昨年6月、同市内でドライブインコンサートを開催した。横山さんは「少し前にベルギーでドライブインコンサートが開かれたばかり。多くのメディアで紹介された」と振り返る。
鎮守の森に常設会場
このときのコンサートを鑑賞した護国神社の稲寿(いな・ひさし)宮司は、車内にいながら迫力のある演奏を楽しめる素晴らしさを実感。横山さんに相談し、鎮守の森に囲まれた境内にステージを常設することを決めた。
横山さんは、米国から機材を輸入するなど技術面で協力。昨年8月にステージが完成し、同月、栃木県内の音楽家が参加したコンサートが開かれた。稲宮司は「神社は古来、憩いの場として人が集う場所。コロナの時代に対応する新たなスタイルで、神社本来の在り方を示したい」と話す。
ステージは木造で、幅7・2メートル、奥行き5・4メートル、高さ1・8メートル。会場は車間を広く取り、最大で乗用車80台を収容できる。護国神社ではこれまでコンサートを6回開催。横山さんが関係した3回のコンサートはいずれも満員御礼だった。横山さんは「落語の寄席も検討したい」と意気込む。
ハザードランプで拍手
栃木県出身のバイオリン奏者、渡辺響子さんは、観客として昨年6月のコンサートに来場していた。渡辺さんは「すべてが新しくわくわくした。体験して初めて楽しさが実感できた」と振り返る。
わくわく感を演出したのは、車のフロントガラスで隔てられた演者と観客との距離をなくす取り組みだ。
スマートフォンでQRコードを読み取りアプリを入手して曲をリクエスト。拍手代わりにハザードランプを点灯させる。車内でわいわい騒ぎながら観賞でき、普通のクラシックコンサートでは入場できない小さな子供やイヌも大丈夫だ。横山さんは「リピーターの中には、演奏中に食べるお弁当を楽しみにしている人もいます」と笑う。
各地で広がる
横山さんの取り組みと同じくして、ドライブインコンサートが各地で開かれている。企画運営会社のAfro&Co.(東京都渋谷区)が昨年8月に千葉県で開いた音楽イベントでは、無料通信アプリ「LINE(ライン)」を使って料理を注文すると、車までローラースケートで配達した。
コンサート音響のヒビノ(東京都港区)は、ライブ感の雰囲気を味わえるよう音質を向上させたシステムをつくり、昨年11月に大阪市で開かれたイベントに提供した。韓国でも昨年10月、ドライブインコンサートでK-POPのスターがパフォーマンスを披露するなど、アジアの国でも実用化が進む。
ただ、感染対策を徹底させても「感染が拡大して自治体から見直しの要請があれば応じざるを得ない」(興行関係者)ため、企画が実現しないケースがあった。スポンサー企業が、イベントを開催することで「コロナを感染させている」という風評被害を懸念して延期したこともある。
コロナ禍での「不自由な生活」の一つとみられていたドライブインコンサートは定着するのか。
ヒビノの担当者は「ドライブインコンサートは海外でも日本全国でも企画が進んでおり、駐車スペースさえ確保できれば長期的な運営が確立できる」と期待する。地方都市ではドライブインシアター開催の動きもあり、新しい芸術鑑賞の形態としてアフターコロナで普及する可能性はある。