【カイロ=佐藤貴生】国際テロ組織アルカーイダの指導者、ウサマ・ビンラーディン容疑者を米軍が殺害してから5月2日で10年になる。2001年9月11日の米中枢同時テロを首謀するなど、同容疑者の「対米ジハード(聖戦)」思想はイスラム過激派のテロ組織に大きな影響を与えた。アルカーイダは組織としての統率力は失ったが、忠誠を誓ったテロ組織が中東やアジア、アフリカでなお活動しており、世界に拡散したイスラム過激派の脅威は消えていない。
ビンラーディン容疑者はパキスタンの首都イスラマバード北郊に潜伏中の11年5月2日未明、米海軍特殊部隊(SEALS)の急襲を受け銃撃されて死亡した。米中枢同時テロのほかイエメン沖の米駆逐艦爆破(2000年)や在ケニア・タンザニアの米大使館同時爆破(1998年)などにも関与したとされる。
57年にサウジアラビアの資産家の家庭に生まれ、79年のソ連によるアフガン侵攻を受け、同国でソ連軍との戦闘に参加。80年代後半にアルカーイダを創設したとされる。
その思想を一言でいえば、米欧のキリスト教国とユダヤ教のイスラエルが手を結んだ十字軍の侵略からイスラム世界を防衛するため、すべてのイスラム教徒には米国やその同盟者を攻撃・殺害する義務がある-というものだ。
カタールの衛星テレビ局アルジャジーラなどが伝えたこうした考えに多くのイスラム過激派が共鳴、連携を表明した。たもとを分かって創設されたとはいえ、一時はイラクとシリアにまたがる地域を支配したイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)も源流はアルカーイダにある。シリアの「ヌスラ戦線」やイエメンの「アラビア半島のアルカーイダ」(AQAP)は、いまも両国で続く内戦の混迷の一因となっている。
「イスラム世界の防衛」のため対米テロを呼びかけたビンラーディン容疑者のアルカーイダと、「イスラム教の守護者」を掲げて中東で疑似国家建設を進めたIS。イスラム過激派に詳しいエジプトの政治評論家、ユスリ・アベイド氏(40)は両者の間で「過激派戦略は本質的に変わった」と指摘した。
ただ、アルカーイダに続いて台頭したISも米軍などの掃討作戦で2019年に中東の支配地域を完全に失い、退潮が続く。一方で、昨年にはイスラム教の預言者ムハンマドの風刺の問題をめぐり、過激化したイスラム教徒の若者が欧州で凶行に走る「ローンウルフ」(一匹おおかみ)型のテロが相次いだ。
組織から個人へと形態が変わる中、イスラム過激派によるテロの封じ込めは新たな課題に直面している。