【モスクワ=小野田雄一、ワシントン=黒瀬悦成】米国とロシア、カナダなど北極の関係8カ国で構成される北極評議会の閣僚級会合が20日、アイスランドの首都レイキャビクで行われ、北極圏の持続可能な発展や環境保護について協議した。豊富な天然資源を擁し、航路としての発展も期待されている北極をめぐっては米露が主導権争いを強めており、両国は会合に先立って互いを激しく牽制(けんせい)した。
南極については日英米や当時のソ連など12カ国が1959年に採択した南極条約があり、領有権主張の凍結や平和利用が定められている。これに対し、北極圏をめぐってはルールが未整備で、関係国の利害や主張が錯綜(さくそう)している。
北極圏に計300万平方キロメートルの領土と領海を有する最大の沿岸国ロシアはとりわけ自己主張を強めている。ロシアは、自国沿岸の北極海航路(北東航路)を通る船舶に対して事前許可の義務付けや、船の誘導のため自国の水先案内人の同乗を要求する方針を表明。要求に従わない船舶には武力行使も辞さないとしており、ブリンケン米国務長官は「国際法違反だ」と強く非難している。
ロシアは2017年、北極圏ヤマル半島で液化天然ガス(LNG)の生産を開始。近隣のギダン半島でのLNG生産も23年の開始を予定しており、アジア太平洋地域を中心にLNG市場でシェア拡大を狙う。
北極圏の資源開発とセットになるのが、輸送を担う北極海航路の開発だ。ロシアは北東航路でアジアと欧州を結べばスエズ運河ルートよりも距離が3割短縮されるとし、大型砕氷船の建造などを進めている。
露メディアによると、17年は1千万トンだった北東航路の輸送量は20年に3300万トンまで増加。今年3月のコンテナ船座礁事故でスエズ運河が遮断された際、露政府はすかさず北極海航路の宣伝を図った。
バイデン政権が警戒を強めているのは、ロシアによる北極圏での軍事力増強だ。ロシアは1月、北極圏を管轄する北方艦隊に、権限がより強い「軍管区」の地位を付与。3~4月には北極点近くでの戦闘機への空中給油や複数の原子力潜水艦による同時浮上実験などを行った。
ラブロフ外相は今月17日、「ロシアが北極圏で軍事活動を展開しているとの泣き言が(各国から)出ているが、それはロシア領(内の演習)だ」などと主張。他方で「ノルウェーなどが北大西洋条約機構(NATO)を北極に引きこもうとしている」と欧米側を批判した。
これに対してブリンケン氏は18日、北極評議会閣僚級会合を前に、レイキャビクで記者団に「ロシアは北極海で不法な海洋権益を主張している」などと批判した。
米CNNテレビ(電子版)によると、ロシアは原子力推進式の核魚雷「ポセイドン2M39」の開発を北極海沿岸の露軍基地で行っているほか、ロシアの戦略爆撃機や戦闘機が北極圏に多数配備されていることが衛星写真で確認された。
米国は昨年、北極海航路での航行の自由を掲げ、ロシアに近いバレンツ海で欧州の同盟諸国と合同海軍演習を2回にわたり実施した。ブリンケン氏は、ロシアによる北極海の軍事拠点化は「事故や誤算の増大につながる。北極海の平和的かつ持続可能な将来を確保するという各国共通の目標にも反する」と指摘した。
中国が北極海航路を「氷のシルクロード」と名付け、巨大経済圏構想「一帯一路」の中に組み込んでいく考えを示していることも沿岸国の警戒心を呼んでいる。