【カイロ=佐藤貴生】6月18日投票のイラン大統領選で同国内務省は25日、反米保守強硬派の実力者であるライシ司法府代表ら7人が立候補資格を得たと発表した。穏健派の有力候補は失格となり、ライシ師が事実上の最有力候補。選挙戦は予定を前倒しして同日解禁され、保守強硬派が対米批判を強める公算が大きい。保守強硬派が勝利すれば、2015年のイラン核合意の維持がさらに困難になる可能性がある。
イランのメディアによると大統領選には592人が立候補し、最高指導者ハメネイ師の影響下にある「護憲評議会」が適性を審査して候補を絞り込んだ。穏健派の有力者ラリジャニ前国会議長のほか、保守強硬派のアハマディネジャド前大統領も失格となった。
ライシ師は革命体制を強権で支える司法府でキャリアを積んだ。17年の前回選で穏健派のロウハニ現大統領に敗れたが、ハメネイ師の指名で19年に司法府トップに就任、同師の評価も高いといわれる。次期最高指導者の候補にも浮上しており、保守強硬派の牙城である革命防衛隊とも親密な関係にあるとされる。
イランのメディアによると、立候補資格を得た7人のうち5人が保守派で、票の分散を避けてライシ師に候補を一本化するとの観測もある。穏健派ではヘンマティ中央銀行総裁が出馬を認められた。
一方、核合意再建のため米国と間接協議を続けるロウハニ大統領は、イランの核開発を検証する国際原子力機関(IAEA)との限定的な協力が期限切れを迎えたのを受け、24日にIAEAとの協力を1カ月間延長した。米国が科した経済制裁の解除を実現し、穏健派の影響力を取り戻す狙いがうかがえる。
ただ、8月に任期が切れるロウハニ師の求心力低下は著しい。ライシ師は以前、制裁解除を当て込んだロウハニ師の核合意締結は失敗し、「貧富の差が拡大した」と批判していた。
このため、次期大統領がライシ師ら反米保守強硬派になれば核合意に背を向ける公算が大きく、「対米関係の改善は望めない」(エジプトの政治評論家アハメド・サイード氏)との見方が多い。敵対するイスラエルやアラブ諸国との摩擦により中東の不安定化が加速する恐れもある。
イランのイスラム教シーア派の指導層は選挙の投票率を体制信任の指標と位置づけているが、経済低迷や穏健派の有力候補が出馬を阻まれたことで投票率は下がるとの見方が出ている。